SES契約書とは?
SES契約書(システムエンジニアリングサービス契約書)とは、企業が外部のエンジニアを常駐またはリモートで活用し、システム開発・保守・運用などの技術支援を受ける際に取り交わす契約書です。SESは「労務提供型」であり、請負契約や準委任契約とは異なり、成果物の完成義務を負いません。そのため、要員の管理、指揮命令系統、稼働時間の精算、秘密保持、知的財産権の帰属など、特有の注意点が存在します。
とくに、人材不足が深刻化するIT業界ではSESの活用が一般化しており、プロジェクト単位で外部エンジニアを追加するケースは増加傾向にあります。適切なSES契約書を整備することで、委託側の企業(発注者)と、エンジニアを派遣する企業(受注者)の双方が安心して協働できる環境を構築できます。
SES契約書が必要となるケース
SES契約書は以下のような場面で必須となります。
- プロジェクトの一時的な要員不足を補うため、外部エンジニアを常駐させる場合
- 開発スケジュールが逼迫しており、即戦力の技術支援が必要な場合
- サーバー運用・保守業務を外部に依頼する場合
- 複数のサービス運用を並行するため、専門的なスキル保有者が必要な場合
- 社内エンジニアの退職や長期休職により一時的なリソース不足が生じた場合
SESは技術力単位のリソース提供であり、成果物の完成を依頼する「請負契約」とは法的な性質が根本的に異なります。過度に成果物責任を受注側に課すと「偽装請負」とみなされる可能性があるため、契約書を正しく整備することが非常に重要です。
SES契約書に盛り込むべき主な条項
SES契約書には、次のような条項が不可欠です。
- 契約の目的
- 業務内容の特定
- 要員の管理方法(指揮命令系統の明確化)
- 稼働時間と精算ルール
- 報酬額と支払方法
- 秘密保持義務
- 知的財産権の帰属
- 要員変更のルール
- 禁止事項(法令・セキュリティ・反社など)
- 損害賠償責任
- 契約期間と解除条件
- 管轄裁判所
以下では各条項の実務ポイントを詳しく解説します。
条項ごとの解説と実務ポイント
1. 業務内容・役務範囲の明確化
SES契約書では、業務内容を曖昧にせず、個別契約(作業依頼書)で具体的に定めることが重要です。
- 支援するシステムの種類
- 必要なスキルセット
- 業務場所(常駐/リモート)
- 作業時間・対応範囲
業務範囲を明確化することで、発注側の過度な要求や、受注側のスキルミスマッチを防ぐことができます。
2. 指揮命令系統の整理(偽装請負の回避)
SES契約の最大の論点は「誰が要員に指揮命令を出すか」です。 SESではあくまで要員は受注企業(乙)の社員であり、乙の管理下にあります。
- 甲は業務の成果・方向性のみを指示する
- 乙が要員に対して具体的な業務指示・勤怠管理を行う
- 甲が要員を直接管理する行為(雇用的指揮命令)はNG
これを誤ると「偽装請負」と判断され、行政指導の対象となる可能性があるため、契約書には指揮命令系統を明確化する条文が不可欠です。
3. 稼働時間と精算ルール
SES契約では成果物を納品するのではなく、稼働時間によって報酬が決まります。 そのため、精算ルールの明確化は最も重要なポイントの一つです。
一般的な設定は以下のとおりです。
- 標準稼働時間(例:160時間)
- 精算幅(例:140〜180時間)
- 超過・不足時の単価
- 遅刻・早退・欠勤時の扱い
特に精算幅はトラブルになりやすいため、個別契約で具体的に定めておきましょう。
4. 報酬と支払方法
SES契約は月額単価制が一般的です。 契約書では次の点を明確にします。
- 報酬額(月単価)
- 支払サイト(例:翌月末締め支払)
- 交通費・経費の扱い(通常は乙負担)
- 請求書の提出期限
月末の勤怠報告が遅れると支払遅延につながるため、「報告期限」も定めておくことが望ましいです。
5. 要員の変更
要員変更は発注側企業にとって非常に重要な問題です。スキルが適合しない要員が配置されると、プロジェクト全体の進行に影響するため、契約書では次の内容を定めます。
- 要員の変更は原則禁止
- やむを得ない場合は事前協議のうえ承諾を要する
- 要員が不適切な場合、発注側は交換を請求できる
要員変更のルールを曖昧にした契約書は、企業リスクを高めるため注意が必要です。
6. 秘密保持義務
SESでは、外部エンジニアが企業内の情報にアクセスするため、秘密保持は必須条項です。
- 業務中に知り得た情報を第三者に漏らしてはならない
- 契約終了後も一定期間義務が存続する
- 開示範囲を最小限にとどめる
秘密保持義務が曖昧だと、情報漏洩のリスクが高まります。
7. 知的財産権の帰属
SES契約は労務提供が主であるため、原則として成果物の知的財産権は発注側に帰属させることが多くなります。
ただし、以下の点は個別契約で明確にすべきです。
- 誰が成果物を作成したか
- 著作権の帰属先
- 第三者ライセンスの利用有無
知財の帰属が曖昧だと、納品後の運用・改修に大きな支障が出る可能性があります。
8. 損害賠償
SES契約における損害賠償では、次のようなルールを定めることが重要です。
- 受注側が違反した場合の損害賠償責任
- 発注側の責任範囲は「直接かつ通常の損害に限定する」
- 特別損害・逸失利益は免責とすることが一般的
過度に広い賠償範囲を設定すると、受注側のリスクが大きくなり、契約成立が困難になることがあります。
9. 契約期間と解除条件
SES契約は中長期で継続することが多いため、解除条件を明確にしておく必要があります。
- 重大な契約違反があった場合の解除
- 破産・支払停止等の信用不安発生時の解除
- 反社会的勢力との関係が判明した場合の解除
これらを明記することで、企業リスクを適切に管理できます。
10. 反社会的勢力の排除
近年は、すべての取引契約で「反社会的勢力排除条項」を設けることが一般的です。 SES契約においても例外ではありません。
- 相手が反社であることが判明した場合の解除
- 損害が発生した場合の賠償請求
社会的信用を守るためにも重要な条項です。
SES契約書を作成する際の注意点
- 請負契約との混同を避け、労務提供型として整理する
- 要員の労務管理を発注側が行わないよう明確化する
- 偽装請負に該当しないよう契約条文と実態を一致させる
- 個別契約で業務内容と精算幅を明確に定める
- 成果物が発生する場合は知財の帰属を必ず記載する
- 秘密保持とセキュリティルールを細かく記載する
- 報酬精算のルールを曖昧にしない
SES契約では「契約内容」と「実際の運用」が食い違うと法的リスクが高まるため、社内運用フローとの整合性も検討する必要があります。
SES契約書のまとめ
SES契約書は、外部エンジニアを安全かつ適切に活用するために不可欠な契約書です。請負契約とも派遣契約とも異なる独自の特徴を持つため、要員の管理方法、精算ルール、秘密保持、知的財産権などを明確に定める必要があります。特に、偽装請負の防止・セキュリティ・要員変更・精算幅の設定はトラブルになりやすいポイントであり、契約書の作成段階で十分に検討することが大切です。本記事で示したポイントを押さえて契約書を整備することで、企業は安心して外部エンジニアを活用でき、プロジェクトの品質と生産性を向上させることができます。