研修費用返還合意書とは?
研修費用返還合意書とは、企業が従業員に対して実施した研修に要した費用について、一定の条件下で従業員が返還義務を負うことをあらかじめ合意しておく書面です。主に、高額な外部研修や専門スキル習得を目的とした研修を実施する際に用いられます。企業側としては、研修直後に従業員が退職してしまうと、投下したコストを回収できず、人材育成投資が無駄になるリスクがあります。一方、従業員側としても、返還条件が曖昧なままでは、退職時に予期せぬ金銭請求を受けるおそれがあります。
そこで、研修費用返還合意書を事前に締結しておくことで、
・どの研修が対象なのか
・いくら返還するのか
・どのような場合に返還義務が生じるのか
を明確にし、労使双方の認識を一致させることが重要となります。
研修費用返還合意書が必要とされる背景
人材育成コストの高額化
近年、IT研修、専門資格研修、マネジメント研修など、外部機関を利用する研修は高額化しています。数十万円から百万円単位の研修も珍しくなく、企業にとっては大きな投資です。
早期離職リスクの増加
終身雇用が前提ではなくなった現代では、研修後すぐに転職するケースも増えています。企業としては、一定期間は社内でスキルを還元してもらう前提で研修を実施するため、その前提が崩れると不公平感が生じます。
トラブルの多発
研修費用返還を巡るトラブルは少なくありません。
・就業規則にしか書いていなかった
・返還額の計算方法が不明確
・労働基準法違反ではないかと争われた
といったケースが実務上多く見られます。こうした背景から、個別に合意書を締結する重要性が高まっています。
研修費用返還合意書が使われる主な利用ケース
外部研修・資格取得支援
社外セミナー、専門学校、資格講座など、企業が費用を全額又は一部負担する場合に利用されます。特に、資格が個人に帰属する場合は、返還条件を明確にしておくことが重要です。
海外研修・長期研修
海外派遣や長期間にわたる研修は、渡航費・滞在費なども含め高額になるため、返還合意が実務上ほぼ必須となります。
幹部候補・専門職育成
将来の管理職や専門職育成を目的とした研修では、一定期間の在籍を前提とするケースが多く、研修費用返還合意書が活用されます。
研修費用返還合意書に盛り込むべき必須条項
研修内容の特定
どの研修が対象なのかを明確にしなければなりません。研修名、実施期間、内容概要、実施主体を具体的に記載することで、後日の争いを防ぎます。
研修費用の範囲と金額
返還対象となる費用を限定することが重要です。
・受講料
・教材費
・講師費用
など、研修に直接必要な費用に限定し、総額を明示するのが実務的です。
返還義務が生じる条件
自己都合退職の場合のみとするのか、懲戒解雇等も含めるのかを明確にします。会社都合退職まで含めると無効と判断されるリスクが高まるため、慎重な設計が必要です。
返還額の算定方法
一律全額返還ではなく、在籍期間に応じて段階的に減額する方式が一般的です。合理性のある算定方法を定めることで、有効性が高まります。
支払方法と相殺条項
一括払いか分割払いか、給与や退職金との相殺を認めるかを明記します。ただし、相殺については法令遵守が不可欠です。
労働基準法との関係と注意点
違約金・損害賠償予定の禁止
労働基準法では、労働契約の不履行に対して違約金や損害賠償額を予定することを禁止しています。そのため、研修費用返還合意書が実質的に違約金と評価されると無効となるおそれがあります。
合理性と任意性が重要
研修費用返還が認められるためには、
・企業の実費負担であること
・返還条件が合理的であること
・従業員が自由意思で合意していること
が重要な判断要素となります。
全額返還はリスクが高い
在籍期間にかかわらず全額返還とする設計は、過度な拘束と評価されやすく、無効と判断されるリスクがあります。段階的減額方式が推奨されます。
就業規則だけでは不十分な理由
研修費用返還について就業規則に定めている企業もありますが、それだけでは不十分な場合があります。
理由として、
・個別合意がないと認識される可能性
・内容を十分に理解していないと主張される可能性
が挙げられます。そのため、就業規則とは別に、研修前又は研修開始時に個別の合意書を締結することが望ましいとされています。
実務でよくあるトラブルと回避策
退職時に初めて返還請求した
事前説明や書面合意がないまま請求すると、ほぼ確実にトラブルになります。必ず研修前に合意を取りましょう。
返還額の根拠が説明できない
金額の内訳や算定方法が不明確だと、合理性が否定されるおそれがあります。合意書には具体的に記載することが重要です。
会社都合退職にも返還を求めた
会社都合退職まで返還対象にすると、無効と判断されるリスクが高まります。対象範囲の設定には注意が必要です。
研修費用返還合意書を作成する際の実務ポイント
- 研修前に必ず締結すること
- 内容を口頭でも丁寧に説明すること
- 返還条件を過度に厳しくしないこと
- 就業規則との整合性を取ること
- 高額研修ほど専門家チェックを行うこと
まとめ
研修費用返還合意書は、企業の人材育成投資を守るための重要な契約書である一方、作り方を誤ると無効となり、かえってトラブルを招くリスクがあります。
合理的な返還条件、明確な算定方法、従業員の自由意思による合意を確保することで、初めて実務に耐える合意書となります。mysignの研修費用返還合意書ひな形を活用しつつ、自社の研修内容や実態に合わせて調整し、必要に応じて専門家の確認を行うことが望ましいでしょう。