SNSアカウント売買契約書とは?
SNSアカウント売買契約書とは、SNSアカウント(X・Instagram・YouTube・TikTokなど)を譲渡・売買する際に、当事者間で権利・義務関係を明確にするための契約書です。
アカウントは法律上「無体財産(デジタル資産)」に該当し、厳密にはプラットフォーム規約により譲渡が禁止されているケースもあります。しかし、実務上は「事実上の管理権限の引き継ぎ(ログイン情報の移転)」として取引が行われることが多く、これに伴うリスクを最小化するために本契約書が利用されます。
本契約書では、譲渡の範囲、対価、表明保証、秘密保持、損害賠償などを体系的に定めることで、譲渡人と譲受人の双方を保護する内容となっています。
SNSアカウント売買契約書が必要となるケース
SNSアカウントの売買・譲渡が発生する典型的なケースは以下のとおりです。
- 個人が育てた人気SNSアカウントを企業や代理店に譲渡する場合
- 企業がマーケティング用アカウントを別の法人へ事業譲渡する場合
- YouTubeチャンネルを新しい運営者に引き継ぐ場合
- SNS運用代行業者が、納品の一環としてアカウント権限を引き渡す場合
- M&Aや事業譲渡に伴い、SNSアカウントを含むブランド資産を移転する場合
このような取引においては、アカウントに紐づくフォロワーや投稿、広告収益、ブランド価値といった「無形の価値」が関わるため、後日のトラブル防止には契約書が欠かせません。
SNSアカウント売買契約書に盛り込むべき主な条項
SNSアカウントの売買契約書には、以下のような条項を盛り込むことが重要です。
- 定義条項(対象アカウントの特定方法)
- 譲渡内容(引き渡す情報やデータの範囲)
- 譲渡対価および支払方法
- 表明保証条項(正当な権利者であることの保証)
- 責任範囲(凍結・停止などに関する免責)
- 秘密保持義務
- 契約解除条項
- 損害賠償条項
- 再譲渡禁止条項
- 準拠法・裁判管轄条項
これらの条項を明確にすることで、SNS運営者のアカウント譲渡に関するリスクを最小限に抑えられます。
条項ごとの解説と注意点
定義条項
契約書の冒頭では、「本アカウント」や「譲渡」などの用語を正確に定義します。SNSアカウントはIDやパスワードのほか、フォロワー、投稿履歴、収益権、紐づく広告アカウントなど多岐にわたるため、譲渡対象を曖昧にすると後日「どこまで移転されたのか」を巡る争いが生じます。 特にYouTubeのようにAdSense収益が紐づいている場合、チャンネルのみを譲渡するのか、収益受け取り口座まで移転するのかを明確に定めておくことが重要です。
譲渡内容・引渡し方法
SNSアカウントの引渡しは、原則として「ログイン情報(ID・パスワード)の引き渡し」によって行われます。 このとき、メールアドレス・電話番号・二段階認証設定なども譲受人に移管できるか確認が必要です。 プラットフォームの利用規約では「譲渡禁止」とされているケースが多いため、契約書上では「譲渡実現に合理的な範囲で協力する」旨を記載しておくと現実的です。
譲渡対価・支払方法
売買価格はフォロワー数・エンゲージメント率・収益性などに基づき決定されます。 支払い方法を明示しないまま進めると、未払い・返金トラブルにつながるため、 「支払い期限」「振込先」「振込手数料の負担者」を明確に記載します。 また、受領確認後にログイン情報を渡すなど、ステップを区切ることで安全性が高まります。
表明保証条項
譲渡人が「正当な権限を有するアカウントである」こと、「規約違反がないこと」を保証する条項です。 SNSアカウントは匿名性が高く、過去の投稿に著作権侵害や誹謗中傷が含まれている場合、譲受人が損害を被るリスクがあります。 そのため、譲渡人は「第三者の権利侵害がない」「停止リスクがない」ことを保証し、虚偽があった場合の責任を負う旨を定めることが実務上必須です。
責任の範囲・免責
SNSはプラットフォームの判断で凍結や削除が行われるため、譲渡完了後に予期せぬ凍結が生じても譲渡人が責任を負わない旨を明記します。 ただし、譲渡人の故意・過失によって発生した損害は免責されない点を明確にすることで、公平性を担保します。
秘密保持条項
アカウント取引の過程で、譲受人・譲渡人の取引履歴や広告戦略などの情報が共有されるため、これらを第三者に漏らさないよう義務づけます。 契約終了後も一定期間は秘密保持義務を存続させる形が望ましいでしょう。
契約解除条項
支払遅延・引渡遅延などが発生した場合の解除条件を定めます。 特に「支払いが完了しない限り譲渡は完了しない」「解除時は受領金を返還する」など、金銭の扱いに関するルールを明確化することが大切です。
損害賠償条項
違反行為により生じた損害(例:不正投稿・ログイン情報漏洩など)に対して、相手方が直接損害を賠償する旨を定めます。 間接損害まで責任を負うと範囲が広がりすぎるため、実務上は「直接かつ通常の範囲」に限定するのが一般的です。
再譲渡禁止条項
譲受人が受け取ったアカウントを第三者に転売・譲渡することを禁止する条項です。 SNSアカウントの転売は規約違反としてアカウント削除や凍結のリスクがあるため、再譲渡防止を明記することがトラブル防止に直結します。
準拠法・裁判管轄
万一トラブルが発生した場合、どの裁判所で解決するかを定めておきます。 一般的には「東京地方裁判所」など特定の裁判所を「専属的合意管轄」とする条項を設けます。 また、電子契約サービス(mysignなど)を利用する場合、日本法を準拠法とする記載を入れておくと有効です。
契約書を作成・利用する際の注意点
SNSアカウント売買契約書を作成・締結する際は、以下の点に特に注意が必要です。
- SNSプラットフォームの利用規約では譲渡が禁止されていることが多い
→ 実務上は「アカウントの管理権限の移転」として扱う - アカウント譲渡後の凍結・停止リスクを完全に排除することは不可能
→ 契約書で「譲渡後の免責」を明確に定める - フォロワーや収益の数値は変動するため、事前確認・スクリーンショット保存を推奨
- 投稿・メッセージ履歴に第三者の著作物や個人情報が含まれる場合、削除してから譲渡する
- 譲渡価格は市場価値だけでなく「法的リスク・運用コスト」も考慮する
- 契約締結には電子契約(mysign等)を活用し、改ざん防止・証跡管理を徹底する
SNSアカウントは「デジタル資産」として扱われる一方、プラットフォーム依存の不安定な側面もあります。
そのため、契約書を交わす際には、リスク分担を明確にし、法的拘束力を持たせることが取引の安全性を高める第一歩です。