ドメイン譲渡契約書とは?
ドメイン譲渡契約書とは、インターネット上のドメイン名に関する所有権や管理権限を、現在の保有者(譲渡者)から新たな保有者(譲受者)へ移転する際に、その条件・手続・責任範囲を明確にするための契約書です。 今日では個人サイトから法人メディア、ECサイト、オウンドメディアなど、あらゆる事業がドメインを用いて展開されています。そのため、事業売却やサイト移管、ブランド変更、他社への譲渡などが行われる際、ドメインそのものを売買するケースが増えています。
ドメインは、「誰がそのサイト・ブランドの主体であるか」を示す重要な資産です。加えて、SEO評価、外部リンク、検索順位の歴史など、単なる文字列以上の価値を持つ場合も多く、譲渡には細心の注意が求められます。こうした背景から、ドメイン譲渡契約書は、誤解・紛争・権利侵害を防ぐための“最低限の法的安全装置”として不可欠です。
ドメイン譲渡契約書が必要となるケース
ドメイン譲渡契約書は「念のため」作るものではなく、実際には以下のような場面で必須となります。
- サイト売却(M&A)に伴ってドメインを譲渡する場合
- 個人運営サイトを法人化し、法人名義に切り替える場合
- ブランド変更・事業統合によりドメインを入れ替える場合
- 使わなくなったドメインを他者に販売する場合
- 外部事業者へメディア運営を委託するに伴い名義変更を行う場合
ドメインは「権利関係」が複雑になりがちで、譲渡後の責任範囲を明確にしておかないと、後日にトラブルへ発展するリスクがあります。特にSEO領域では、スパムリンク歴・ブラックリスト登録・過去のサイト内容の評価など、譲渡者が意図せず負った“負の遺産”が影響することもあるため、契約書による整理が重要となります。
ドメイン譲渡契約書に盛り込むべき主な条項
一般的なドメイン譲渡契約書では、以下の条項が必須です。
- 目的条項(何のための譲渡かを明確化)
- ドメインの特定(正確なドメイン名や付随情報の明示)
- 譲渡対価と支払条件
- 名義変更・移管手続
- 権利保証(第三者権利侵害がないことの保証)
- 過去の履歴に関する免責
- 秘密保持
- 契約解除条件
- 損害賠償条項
- 準拠法・管轄裁判所
以下では、それぞれの条項について実務の観点から詳しく解説します。
条項ごとの詳細解説
1. 目的条項
契約書冒頭に「何のためにドメインを譲渡するのか」を明記することで、他条文の解釈の基準となります。 目的条項が曖昧だと、「付随サービスは含まれるのか」「管理業務も移るのか」「メールアカウントの移管は?」など、細かな部分で解釈のズレが生じます。 特に、ドメインはサーバー、メール、SSL証明書など多くの“紐づき資産”を持つため、目的を明確化しておくことは重要です。
2. ドメインの特定条項
誤記や表記ゆれを防ぐため、正確なドメイン名(例:example.jp)を記載します。 また、以下の要素を含めると実務的です。
- 関連するサブドメインの扱い
- DNSレコードの譲渡範囲
- SSL証明書の引き継ぎ可否
- メールアカウントの取り扱い
特に注意したいのは「サブドメイン」の扱いです。メインドメインの譲渡に伴い、自動的にサブドメインも譲渡される点を理解していないと、予期せぬ情報流出につながることがあります。
3. 譲渡対価と支払方法
ドメインの価値は、市場価値、検索キーワード、ブランド価値、外部リンク数などによって大きく異なります。 不正確な情報によるトラブルを防ぐため、対価と支払条件は明確に記載します。
4. 名義変更(移管)手続
ドメイン管理会社(レジストラ)ごとに移管手続は異なるため、契約書では以下を明確にします。
- 移管方法(AuthCode提供、レジストラ変更など)
- どのタイミングで所有権が移転するか
- それぞれの作業負担者
- 遅延が生じた場合の扱い
移管の遅延はトラブルになりやすいため、期限や協力義務を設けることが重要です。
5. 権利保証条項
譲受者が最も気にする部分がここです。 譲渡者は、
- 正当な権利者であること
- 第三者の権利を侵害していないこと
- 差押え・紛争がないこと
などを保証しなければなりません。過去のSEOスパム歴や法令違反が発覚した場合、譲受者は大きな損害を被る可能性があるため、権利保証は必須です。
6. 履歴に関する免責条項
ドメインには「過去の利用履歴」がつきまといます。 この履歴は100%把握することは困難なため、譲渡者が完全保証することは現実的ではありません。 そのため、実務では以下を免責するのが一般的です。
- 過去のSEO評価の正確性
- 外部リンクの質
- スパム登録の有無
- 検索エンジンからのペナルティ歴
重要なのは、「譲受者が自己責任で調査する」という点を明記しておくことです。
7. 秘密保持条項
ドメインの譲渡には、ログイン情報・契約情報など機密性の高いデータが含まれます。 そのため、秘密保持条項は必ず盛り込む必要があります。
8. 契約解除条項
移管手続を進める上で、「どちらかが何も対応しない」状況が起こると取引が停止します。 このようなリスクを避けるため、以下を定めます。
- 譲受者が支払期日を守らなかった場合の対応
- 譲渡者の協力が得られない場合の解除
- 解除後の返金の有無
解除条件が明確であると、双方の心理的負担が減ります。
9. 損害賠償条項
契約違反により損害が生じた場合の責任範囲を示します。 特に「通常損害に限定する」という一文の有無は非常に重要です。 これにより、予想外の巨額賠償請求を防ぐことができます。
10. 準拠法・管轄裁判所
日本国内の取引であれば日本法を準拠法とし、譲渡者所在地の裁判所を専属管轄とするのが一般的です。
ドメイン譲渡契約書を作成する際の注意点
1. ドメインの「付随資産」をどう扱うかを明確にする
ドメインは、単独で存在しているわけではありません。 DNS、メール、SSL、サーバー設定などが複雑に絡み合っています。 事前に以下を整理して契約書に反映させる必要があります。
- メールアドレスは譲渡対象か
- SSL証明書の名義変更は可能か
- サーバー情報は譲渡するか
- サブドメインの権利範囲
2. 過去の運用履歴は完全には保証できない
SEOの世界では、前運営者による不正リンクやコンテンツスパムが数年後に問題化することもあります。 譲渡者は「完全に安全です」とは言い切れないため、免責条項を必ず入れます。
3. 移管タイミングによるリスク
ドメインの更新時期と移管時期が重なると、移管が拒否されたり停止したりすることがあります。 契約書で「双方協力し速やかに手続きを行う」旨を明記しておくことが重要です。
4. ドメイン紛争(UDRP等)の可能性
商標権を侵害するドメインを譲渡すると、受け取った側が紛争に巻き込まれる可能性があります。 権利保証条項を設けることで、このリスクを最小限にできます。
ドメイン譲渡契約書を利用するメリット
ドメイン譲渡契約書を用いる最大のメリットは、取引の透明性と安全性を確保できる点です。具体的には以下が挙げられます。
- 譲渡条件が明確となり、誤解や紛争を防止できる
- 過去の履歴に関する責任範囲が明確になる
- 譲渡者・譲受者双方に必要な手続の負担範囲が明示される
- トラブル発生時に契約書が法的な証拠となる
特に、金銭が絡む取引では、契約書があるかどうかでリスクが大きく変わります。
まとめ
ドメインはインターネット時代における重要な資産であり、売買や譲渡の際には適切な法的整備が欠かせません。 ドメイン譲渡契約書を用いることで、譲渡条件や権利保証、移管手続、免責事項を明確化し、トラブルを未然に防ぐことができます。
事業の成長や売却、運営者変更などさまざまな場面でドメイン移管は発生するため、こうした契約書は“事業活動の安全装置”として大きな役割を果たします。実際に契約を締結する際には、今回のひな形をベースにしつつ、ドメインの種類や取引状況に応じて内容を調整し、必要に応じて専門家へ確認してから利用することを推奨します。