事業譲渡契約書(飲食店向け)とは?
事業譲渡契約書(飲食店向け)とは、飲食店の運営主体が変更される際に、店舗設備や営業権、ノウハウなどの事業を第三者へ譲渡する条件を定める契約書です。飲食店の事業譲渡では、単なる資産売買とは異なり、店舗の信用、顧客、レシピ、屋号といった無形の価値も含めて引き継がれる点が大きな特徴です。飲食業界では、後継者不足や経営戦略の見直しを理由に、店舗単位での事業譲渡が増えています。その際、口約束や簡易な合意だけで進めてしまうと、譲渡後にトラブルが生じるリスクが高くなります。事業譲渡契約書は、こうしたリスクを未然に防ぐための重要な法的文書です。
飲食店の事業譲渡で契約書が不可欠な理由
飲食店の事業譲渡では、以下のようなトラブルが発生しやすい傾向があります。
- 譲渡対象に含まれる設備や在庫の範囲が不明確
- 屋号やメニューの使用権を巡る認識の違い
- 従業員の雇用を誰が引き継ぐのか不明確
- 譲渡後に元オーナーが近隣で同業を始める問題
事業譲渡契約書を作成することで、これらの論点を事前に整理し、譲渡人・譲受人双方の責任範囲を明確にすることができます。特に飲食店は現場オペレーションに依存する部分が大きいため、契約内容の明確化が経営の安定に直結します。
飲食店の事業譲渡が利用される主なケース
飲食店向けの事業譲渡契約書は、次のような場面で利用されます。
- 個人経営の飲食店を第三者に引き継ぐ場合
- 法人が不採算店舗のみを切り離して売却する場合
- フランチャイズ店舗を第三者へ譲渡する場合
- 事業承継として親族や従業員へ店舗を引き渡す場合
これらのケースでは、譲渡の対象や条件がそれぞれ異なるため、飲食店特有の事情を踏まえた契約内容が求められます。
事業譲渡契約書に盛り込むべき必須条項
飲食店向け事業譲渡契約書には、最低限以下の条項を盛り込む必要があります。
1. 譲渡対象事業の範囲
店舗設備、厨房機器、在庫、屋号、メニュー、レシピ、顧客情報など、何が譲渡対象に含まれるのかを具体的に記載します。曖昧な表現は、後の紛争の原因となるため避けるべきです。
2. 譲渡対象外の明確化
現預金や個人的な債務など、譲渡対象に含まれないものも明示しておくことで、責任の所在を明確にできます。
3. 譲渡価格と支払条件
譲渡価格、支払方法、支払期日を明確に定めます。分割払いとする場合には、その条件も詳細に規定する必要があります。
4. 引渡日と事業承継の時期
いつから事業が譲受人に移転するのかを明確にし、収益や費用の帰属時点を定めます。
5. 従業員の取扱い
従業員を引き継ぐか否か、引き継ぐ場合の雇用条件の扱いについて定めます。労働法令との整合性が重要な条項です。
6. 表明保証条項
譲渡人が、法令違反や未解決の紛争がないことなどを保証する条項です。譲受人にとってはリスク管理上、非常に重要な部分となります。
7. 競業避止義務
譲渡後に譲渡人が近隣で同業を始めることを防ぐため、一定期間・一定地域での競業を制限します。飲食店では特に重要な条項です。
8. 秘密保持条項
レシピや仕入先、顧客情報など、営業上の秘密が第三者に漏えいしないよう定めます。
9. 契約解除および損害賠償
契約違反があった場合の解除条件や、損害が発生した場合の賠償責任を定めます。
飲食店の事業譲渡契約書を作成する際の注意点
飲食店特有の事情を踏まえ、以下の点に注意する必要があります。
- 許認可は原則として自動承継されないため、再取得が必要な場合がある
- レシピやノウハウの扱いを曖昧にしない
- フランチャイズ契約がある場合は本部の承諾要否を確認する
- 税務上の取扱い(譲渡益課税など)も事前に確認する
これらを軽視すると、譲渡後に想定外のコストや法的問題が発生する可能性があります。
事業譲渡契約と他の契約との違い
事業譲渡契約は、株式譲渡や店舗賃貸借契約とは異なり、譲渡する対象を個別に選別できる点が特徴です。飲食店の場合、店舗単位での柔軟な事業整理が可能になるため、経営戦略上有効な手段として活用されています。
まとめ
事業譲渡契約書(飲食店向け)は、飲食店の価値を安全に引き継ぐための基盤となる重要な契約書です。店舗設備や営業権、ノウハウ、従業員対応まで含めて整理することで、譲渡人・譲受人双方の不安を軽減できます。飲食店の事業譲渡は人生や経営の大きな転機となる場面が多いため、契約書を形式的なものとして扱わず、実態に即した内容で整備することが不可欠です。ひな形を活用しつつ、必要に応じて専門家の確認を受けることで、安心して事業譲渡を進めることができます。