eスポーツ選手契約書とは?
eスポーツ選手契約書とは、プロeスポーツチームと選手の間で交わされる、競技活動・報酬・肖像利用・メディア出演・秘密保持・禁止行為などを明確に定める契約書のことです。近年、eスポーツが職業として一般化し、スポンサー契約や大会賞金、配信収益が関わるケースが増えたことで、チームと選手の関係はより複雑になってきました。曖昧な口頭合意のまま活動を開始すると、「賞金の分配条件」「配信の自由度」「SNSの発言」「使用アカウントの権利」「違反行為への対応」などを巡ってトラブルが起こることも少なくありません。
そのため、eスポーツ業界では、プロスポーツと同様に権利義務を文書化することが求められています。eスポーツ選手契約書は、チーム側にとっては選手の活動を適切に管理するための基盤となり、選手側にとっては自身の待遇や権利を守るための重要な手段になります。
以下では、eスポーツ選手契約書が必要となるケース、盛り込むべき条項、各条項の解説、実務上の注意点を網羅的に解説します。
eスポーツ選手契約書が必要となるケース
eスポーツは多様な収益源が絡むため、契約内容を明確にしなければ誤解や損害が発生する可能性が高い分野です。特に次のような場面では必須といえます。
- プロチームが新規に選手を獲得する場合 →活動内容や報酬体系を明確にし、責任範囲や広報活動の義務を整理できます。
- 企業がスポンサーを受けてチームを運営する場合 →スポンサー向けの出演やSNS投稿などの義務を契約に盛り込む必要があります。
- 有名選手が個人事務所としてチームと契約する場合 →肖像権、SNS管理、大会出場条件などの調整が不可欠です。
- 賞金や配信収益を複数名で分配する場合 →割合を明確に記載しておかないと大きなトラブルの原因になります。
- 未成年選手がプロ活動を行う場合 →保護者の同意、活動時間、通学との両立に配慮した記載が求められます。
このように、eスポーツ選手契約書は、チームと選手の双方を守り、持続的な活動を可能にするための法的枠組みとして重要な役割を果たします。
eスポーツ選手契約書に盛り込むべき主な条項
一般的なeスポーツ選手契約書には、次のような条項を盛り込む必要があります。
- 目的
- 定義(競技活動・広報活動・成果物など)
- 選手の義務
- チームの義務
- 報酬(基本報酬・賞金・スポンサー収益・配信収益)
- 活動スケジュール
- 肖像権・著作権
- 秘密保持
- アカウント・機器の管理
- 健康管理
- 契約期間・自動更新
- 禁止事項
- 損害賠償
- 契約解除(違反・不正・信頼失墜行為など)
- 準拠法・裁判管轄
各条項の内容を詳しく見ていきます。
条項ごとの詳細解説と実務ポイント
1. 目的条項
目的条項は、契約書全体の位置づけを示すもので、「選手がチームの一員として競技活動・広報活動を行うこと」を明確にします。この条項が曖昧だと、後に「その業務は契約に含まれていない」といった紛争が起きやすくなります。
2. 定義条項
eスポーツ契約書では特に「競技活動」「広報活動」「成果物」の定義が重要です。
- 競技活動:練習・大会出場・研究など
- 広報活動:スポンサー対応、SNS投稿、イベント出演
- 成果物:配信アーカイブ、動画、画像、文章など
ゲーム配信、動画編集、SNS運用などは選手によってスタイルが異なるため、定義を広めに設定し、チームの裁量で調整しやすい形にすることが実務上望ましいです。
3. 選手の義務
選手の義務には、競技活動・広報活動・チーム指示遵守・品位保持・無断欠席禁止などが含まれます。特にSNS発信にまつわるトラブルが多いため、
- 暴言や差別表現の禁止
- チームのブランド毀損行為の禁止
- スポンサー批判の禁止
などの記載は不可欠です。
4. チームの義務
チーム側にも、
- 報酬を適切に支払う義務
- 練習環境の提供
- 過度な拘束をしない義務
といった義務を明確化します。選手側の安全と権利を守る条項は、チームの信頼性向上にもつながります。
5. 報酬条項
eスポーツ特有の重要な条項です。代表的な項目は以下のとおりです。
- 基本報酬(固定給)
- 賞金の配分ルール
- スポンサー収益の分配
- 配信プラットフォーム収益の扱い
特に賞金分配はトラブルが最も多いため、「チームの取り分」「選手の取り分」を明確に数値化する必要があります。
6. 活動スケジュール条項
練習時間、ミーティング、イベント参加などを整理します。 「過度な拘束」の批判を避けるため、合理的な範囲での管理であることを明示するとバランスが取れます。
7. 肖像権・著作権
選手の名前・顔写真・動画は広告で使用されるため、適切な許諾が必要です。また、配信や動画編集が選手の主な活動となる場合、どこまでがチームに帰属し、どこからが選手の自由裁量かを明確化することが実務上重要です。
8. 秘密保持
戦術情報、スポンサー情報、チーム戦略などの秘密は厳重に守る必要があります。eスポーツは戦術分析が勝敗に影響するため、情報漏えいによる損害は大きい特徴があります。
9. アカウント・機器の管理
ゲーム内アカウント、練習用機器の提供は多くのチームで行われています。 「貸与物はチームの所有であり、第三者使用は禁止」と明記することが大切です。
10. 健康管理
eスポーツ選手は長時間の座位や眼精疲労、睡眠不足などが問題になりやすいため、健康管理条項は必須です。活動が困難な状況は速やかに報告する旨を明記します。
11. 契約期間
期間は1年または2年が一般的です。 eスポーツ業界は変動が激しいため、自動更新規定を設けることで双方の負担を軽減できます。
12. 禁止事項
eスポーツに特有の禁止事項として代表的なものは以下です。
- チート・アビューズなどの不正行為
- ランクブースト
- SNSでの暴言や差別発言
- 反社会的勢力との関係
これらは大会出場停止やスポンサー離脱につながる重大リスクであり、必ず明記する必要があります。
13. 損害賠償・契約解除
違反行為によりチームが損害を被った場合の責任や、契約解除の条件を定めます。特に、
- 不正行為による大会失格
- SNS炎上
- ブランド毀損
といったケースではチームが大きな損害を被る可能性があるため、適切な規定が不可欠です。
eスポーツ選手契約書を作成する際の実務上の注意点
1. SNSと配信の取り扱いは特に慎重に
多くの選手はSNS・配信活動を行うため、自由度と管理のバランスを慎重に定める必要があります。
2. 未成年選手の契約は追加の配慮が必要
保護者の同意、活動時間制限、学業との両立など、独自の配慮が求められます。
3. スポンサーとの三者関係を整理する
選手がスポンサーとの直接契約を希望するケースもあるため、「チームを介するか否か」を明確にします。
4. 法律改正への対応
労働法、著作権法、景表法など、関連法令の変化に注意が必要です。
まとめ
eスポーツ選手契約書は、選手とチームの双方を守り、持続的で安定した活動基盤を作るための重要な文書です。報酬、活動義務、SNS管理、禁止事項、肖像権など、eスポーツ特有の問題を契約段階で整理することで、トラブルを未然に防ぎ、健全な運営が可能になります。
契約書は単なる形式ではなく、チーム運営や選手のキャリアを支える“法的インフラ”です。実務上のリスクを回避し、安全で透明性のある関係を構築するためにも、必ず専門的な契約書を整備することが求められます。