国際移籍同意書とは?
国際移籍同意書とは、プロアスリートが国境を越えて移籍する際に、原所属クラブ・移籍先クラブ・選手の三者間で移籍条件・責任範囲・手続・移籍金・ITC(国際移籍証明書)の発行などを明確化するための契約書です。とくにサッカー、バスケットボール、野球、バレーボールなど、世界中にリーグが存在する競技では、国際移籍は日常的に行われており、紛争を予防するうえで欠かせない文書です。この契約書の最大の目的は、海外移籍に伴う「不確実性」を排除することです。国やリーグが変われば、移籍ルール、登録方法、報酬体系、労働法制、税制度、医療体制、クラブ文化など、あらゆる条件が異なります。口約束や曖昧な合意のまま移籍を進めると、移籍金未払、登録の遅延、選手の出場停止、契約条件の不一致、健康情報のトラブルなど、多くの問題が発生します。そのため、国際移籍同意書は、クラブ・選手・代理人が移籍を安全かつ円滑に進めるための「法的な基盤」として機能します。
国際移籍同意書が必要となるケース
国際移籍が発生する競技では、以下のような場合に本契約書の作成が必要となります。
- 海外クラブからオファーを受け、選手が移籍する場合
- 移籍金の支払条件を明確にする必要がある場合
- FIFA・国際連盟の移籍規程に基づきITC発行が必要な場合
- メディカルチェック(メディカルテスト)や既往歴共有が必要な場合
- 移籍先クラブと原所属クラブの手続連携が必要な場合
- 移籍後に責任範囲を明確にしておきたい場合
特にサッカーでは、FIFA「Regulations on the Status and Transfer of Players(RSTP)」により、国際移籍時にはITC発行が必須とされ、原所属協会と移籍先協会のシステム連携(TMS)が必要となります。こうした手続をスムーズに進めるためにも、国際移籍同意書は極めて重要です。
国際移籍同意書に盛り込むべき主な条項
国際移籍は国内移籍より複雑であるため、契約書に盛り込むべき項目も多くなります。ここでは、重要となる基本条項を詳しく解説します。
1. 移籍合意条項
もっとも重要な条項が、原所属クラブが選手の移籍を承諾する旨の規定です。これが明確でないと、移籍先クラブは選手との契約を進められません。
主に以下を定義します。
- 移籍を承認する旨
- 移籍成立の条件(選手契約締結、メディカル合格など)
- 三者間に矛盾のない範囲で協議すること
これにより、当事者の合意形成が法律的に成立します。
2. 移籍金・出来高・連帯貢献金に関する条項
国際移籍では、金銭の扱いが中心的テーマになります。
- 移籍金の金額
- 支払期日と方法(銀行振込・TMS管理下など)
- 分割の場合の支払スケジュール
- 連帯貢献金(Solidarity Contribution)
- 育成補償金(Training Compensation)
- 出来高払い(試合数・タイトル獲得など)
支払い遅延があると、ITC発行をめぐる紛争に発展することもあるため、厳密な条項が必要です。
3. 国際移籍手続・ITC発行条項
国際移籍で不可欠なのが「ITC(International Transfer Certificate)」です。
主なポイントは以下のとおりです。
- 原所属クラブがITC発行を速やかに行う義務
- 移籍先クラブが自国協会の登録手続を行う義務
- 必要書類提出などの協力義務
ITC発行が遅れると選手が出場できず、クラブ・選手に大きな損害を与えるため、厳密な規定が求められます。
4. 健康状態・メディカル情報の提供条項
移籍後の怪我トラブルを避けるため、以下の情報を共有することが一般的です。
- 既往歴
- 直近のメディカルデータ
- 負傷・治療の履歴
- 復帰プログラム
移籍先クラブは、受領した情報を厳重に管理し、目的外使用しない義務があります。
5. 選手契約との関係条項
移籍同意書はあくまで「クラブ間の契約」であり、選手と移籍先クラブが締結する労働契約とは別です。
そのため、
- 移籍先クラブが選手契約を適切に締結すること
- 移籍後の契約問題について原所属クラブは責任を負わないこと
を明文化しておく必要があります。
6. 秘密保持条項
移籍の条件、移籍金、選手の健康情報は極めてセンシティブです。
- 第三者への漏洩禁止
- SNS等での情報公開の禁止
- 法令・規程に基づく場合の例外
特に、金額情報が外部に出るとクラブの交渉力や選手の市場価値に影響するため、厳密な規定が必要です。
7. 契約解除条項
重大な違反行為が発生した場合、契約を終了できる規定です。主な例は以下のとおりです。
- 移籍金未払
- ITC発行の不当な遅延
- 選手契約条件の不一致
- 虚偽情報提供
解除後の損害賠償責任も合わせて明記します。
8. 損害賠償条項
国際移籍では、遅延や手続不備による損害が大きいため、賠償条項は必須です。
例:
- 選手が公式試合に出られなかった場合の損害
- 移籍金未払による損失
- 不正行為による協会制裁への対応
「弁護士費用も含む」旨を記載しておくことで、実務上のトラブルに対応しやすくなります。
条項ごとの実務ポイント
1. 移籍金の支払遅延は最大のトラブル要因
国際移籍では、期日までに支払いが行われないケースが少なくありません。分割払いの場合は特に、「一回の遅延が全額の期限の利益喪失につながる」旨を規定すると、クラブ間の紛争防止になります。
2. ITC発行の遅れは選手のキャリアに直結
ITCが発行されないと、移籍先クラブで選手登録ができず、出場停止につながります。これは選手の価値やキャリアに直接影響するため、原所属クラブの協力義務は非常に重要です。
3. メディカル情報の透明性は信頼構築の鍵
国際移籍では、直前まで怪我を隠していた場合など、移籍先クラブとの信頼問題に発展しやすいため、健康情報を正確に共有する仕組みが必要です。
4. 選手の待遇条件を巡るトラブルが多発
給与・ボーナス・住居・移動費など、契約内容が移籍同意書と異なる場合、選手が不利益を被ることがあります。三者間の透明性が重要です。
5. SNS時代の情報漏洩対策は必須
移籍が正式発表される前にSNSで情報が漏洩するケースが多く、クラブの信用問題や契約破棄につながることがあります。秘密保持条項は厳密に設定すべきです。
国際移籍同意書を作成する際の注意点
最後に、実務上とくに注意すべきポイントをまとめます。
- 選手契約とクラブ間契約の整合性を必ず確認する
- 移籍金・出来高の支払スケジュールは明確に設定する
- FIFA・国際連盟の規程を事前に確認する
- ITC発行手続の責任範囲を明確にする
- 健康情報の管理は個人情報保護の観点から厳重に行う
- 代理人・マネジメント会社との役割分担を整理する
- 紛争時の管轄裁判所を明記し、不当な訴訟リスクを避ける
- 第三者(リーグ・協会)による承認要件を確認する
国際移籍は複数の法令・規程・組織が関わるため、契約書が唯一の根拠となります。クラブや選手のリスクを最小化するためにも、条項の正確性・透明性・網羅性が極めて重要です。
まとめ
国際移籍同意書は、国境を越えた選手移籍を安全かつ円滑に進めるための「必須契約書」です。移籍金、手続、ITC発行、責任範囲、健康情報、秘密保持、損害賠償など、移籍に伴うリスクを網羅的に管理する役割を担います。クラブ・選手・代理人は、本契約書を基盤に移籍手続を進めることで、トラブルを未然に防ぎ、選手が移籍後すぐに競技へ集中できる環境を整えることが可能になります。