外部コーチ業務委託契約書とは?
外部コーチ業務委託契約書とは、企業が外部の専門コーチに対して、人材育成・1on1面談・組織改善支援・リーダーシップ開発などのコーチング業務を依頼する際に、その業務範囲や報酬、秘密保持義務、成果物の扱いなどを明確に定めるための契約書です。
近年、企業における人材育成の手法が多様化し、従来の研修型ではなく、個別の成長を支援するコーチングが再評価されています。特に「1on1マネジメント」や「エグゼクティブコーチング」「メンタルサポート型コーチング」など、外部専門家を活用する企業が増えています。
こうした外部専門家との関係では、
・業務の成果が“目に見えにくい”
・面談内容に機微な個人情報が含まれる
・コーチング手法が専門性の高いノウハウに基づく
といった特徴があるため、口頭の約束だけではトラブルが発生しやすくなります。
そのため、外部コーチとの契約では、
・業務の範囲
・責任の分担
・成果物の権利関係
・秘密情報の取り扱い
・スケジュール・費用・キャンセル条件
を文書で明確化しておくことが不可欠です。
外部コーチ業務委託契約書が必要となるケース
企業が外部コーチを活用する場面は幅広く、代表的なケースは以下のとおりです。
- 従業員のパフォーマンス改善のために1on1支援を依頼する場合
- 管理職育成のためにエグゼクティブコーチを導入する場合
- 組織課題に対するアセスメントや改善提案を受ける場合
- 離職率低下やメンタルケアのために個別面談を依頼する場合
- 新任管理職向けのリーダーシップ育成プログラムを依頼する場合
これらはすべて、外部専門家が社員の個人情報・職務情報に触れるため、企業としてリスク管理が求められます。また、コーチによってアプローチや倫理観に違いがあるため、契約書で一定の基準やルールを整えることが重要です。
外部コーチ業務委託契約書に盛り込むべき主な条項
外部コーチとの契約書には、最低限、以下の条項が必要です。
- 契約の目的
- 業務内容(範囲・方法・スケジュール)
- 報酬・支払方法
- 再委託の可否
- 秘密保持義務
- 個人情報の取扱い
- 成果物の権利帰属
- 契約期間と更新
- 契約解除の条件
- 損害賠償範囲
- 反社会的勢力の排除
- 準拠法・管轄裁判所
以下では、それぞれの条項の重要性と実務でのポイントを詳しく解説します。
条項ごとの詳細解説と実務ポイント
1. 契約の目的
“目的”は契約全体の軸となる部分であり、「何のために外部コーチを起用するのか」を明示します。目的を明確にすることで、後の「業務範囲」の判断基準になります。
2. 業務内容(範囲・方法・回数など)
コーチングは抽象的なサービスとなりがちであるため、「どこまでを業務として含むのか」を具体的に記載します。
記載例:
・1on1面談の時間と回数
・面談の実施方法(対面・オンライン)
・レポート提出の有無
・管理職へのフィードバックの範囲
・追加業務が発生する場合の扱い
これを曖昧にすると、後で「その作業も業務に含まれるのでは?」などのトラブルにつながります。
3. 報酬・支払方法
コーチ料金は「時間制」「回数制」「月額制」などの体系があります。 併せて、キャンセル料や交通費などの実費負担も明確にします。
4. 再委託の禁止
コーチングは高度な信頼関係が必要なため、再委託は禁止するのが一般的です。 無断で別のコーチに委託されることを防ぐための条項です。
5. 秘密保持義務
コーチングでは、社員の悩み、上下関係、組織構造など、極めてセンシティブな情報が扱われます。 秘密保持義務は必須であり、内容は中小企業庁モデル並みの堅牢な規定が望まれます。
ポイント:
・開示範囲を必要最小限に限定
・口外禁止
・退職後も一定期間継続
6. 個人情報の取扱い
企業の従業員情報を扱う以上、個人情報保護法の遵守は必須です。
記載すべき点:
・利用目的の特定
・第三者提供の禁止
・適切な安全管理措置
7. 成果物の権利帰属
レポート・フィードバック資料などの著作権は、原則として作成者であるコーチに帰属させるケースが多いです。 ただし、企業内部利用に限り利用許諾する形が実務的です。
8. 契約期間と更新
コーチングは長期運用されるケースも多いため「自動更新規定」を入れる企業が増えています。
9. 契約解除
解除事由を明記しないと、途中解約で揉めます。
よくある解除事由:
・重大な契約違反
・支払遅延
・コンプライアンス違反
・反社会的勢力との関与の発覚
10. 損害賠償
損害範囲は「通常かつ直接の損害」に限定するのが一般的です。
11. 反社会的勢力の排除
業務委託契約書の標準条項として必須です。
12. 準拠法・裁判管轄
明記しないと裁判管轄地で争いが生じます。 多くは「甲の本店所在地の地方裁判所」とします。
外部コーチ業務委託契約書を作成する際の実務上の注意点
- コーチングの境界線を明確化すること(心理療法や医療行為の禁止)
- 社員への勧誘(宗教・ビジネス等)を禁止する条項を必ず入れる
- 面談記録の扱いを明確化する
- 成果物の権利を曖昧にしない
- 個人情報保護法に必ず適合させる
- 機密性の高い業務であるため秘密保持条項を強めに設計する
特に社員の個人情報は企業にとって重大な資産であり、漏えいすると法的リスクだけでなく企業の信頼性が損なわれます。
外部コーチの契約で発生しがちなトラブルと防止策
1. 業務範囲の誤認
例:「管理職向け1on1だけの契約なのに、部下向け面談まで求められた」
→ 業務範囲は必ず明文化する。
2. 成果物の著作権問題
例:「レポートを社内資料として再配布したら著作権侵害と指摘された」
→ 利用範囲を契約に明記。
3. 個人情報・機密情報の漏えい
→ 強固な秘密保持条項と、安全管理措置の義務付けが必要。
4. コーチング内容の報告範囲をめぐる摩擦
→ 「個人情報として報告できる内容」と「本人の同意が必要な内容」を線引きする。
まとめ
外部コーチ業務委託契約書は、企業がコーチング専門家を安全かつ効果的に活用するための「法的インフラ」と言える重要な文書です。業務の性質上、個人情報や機密情報に深く関わるため、秘密保持・個人情報保護・成果物の扱い・業務範囲の明確化などが特に重要になります。
適切な契約書を用いることで、
・外部コーチの品質が安定する
・社員が安心して面談を受けられる
・企業の法的リスクを低減できる
・長期的な育成投資が成功しやすくなる
というメリットが生まれます。
企業の人材育成をより強固なものにするためにも、外部コーチとの契約は必ず文書で整理し、専門家によるチェックも併せて行うことが推奨されます。