肖像権使用許諾契約書とは?
肖像権使用許諾契約書とは、人物の写真、映像、音声、姿など「個人を識別しうる情報」の使用を、企業や団体が適切に行うために締結する契約書です。広告、SNS投稿、動画制作、インタビュー記事、モデル起用など、現代のビジネスでは人物の姿を使用する機会が急増しています。
一方で、肖像は個人の人格的利益として保護されるため、無断使用や過度な加工、誤った文脈で利用すると、名誉毀損やプライバシー侵害につながる恐れがあります。こうしたトラブルを防ぐために必要となるのが「肖像権使用許諾契約書」です。
この契約書を整備することで、使用目的・利用範囲・報酬・編集加工の可否・契約期間などを明確にし、企業と本人双方が安心して肖像を扱える状態を作ることができます。以下では、「肖像権使用許諾契約書」が必要となるケース、盛り込むべき条項、実務運用のポイント、注意点について、体系的に解説します。
肖像権使用許諾契約書が必要となるケース
肖像権の利用は、あらゆるビジネスシーンで発生します。特に以下のケースでは契約書が必須です。
1. 広告写真・動画の撮影を行う場合
広告素材として人物写真を使用する場合、媒体は多岐にわたります。 ・ウェブ広告 ・テレビCM ・SNS広告 ・パンフレット ・LP(ランディングページ) ・交通広告 これらは広範囲に拡散するため、本人の意図しない場所で使われるリスクもあります。契約書により使用期間・地域・媒体を明確にしておくことで、トラブルを防止できます。
2. SNSへの投稿で人物が映る場合
企業アカウントでスタッフや顧客の写真を投稿することは一般的になっています。しかし、撮影後に本人から「削除してほしい」と言われることも多く、契約に基づく合意がないと対応が難しくなります。
3. インタビュー記事・採用広報の人物紹介
採用サイトやYouTubeなどで社員インタビューを掲載する場合にも、肖像の利用許諾が必要です。特に退職後の取り扱いが問題となるため、あらかじめ契約で線引きを行うことが重要です。
4. 店舗・イベントでの撮影利用
店舗の雰囲気紹介、イベントレポート動画などにも人物が映ることがあります。群衆の撮影であっても、特定個人が明確に識別できる場合には肖像権侵害の可能性があり、事前の許諾が有効です。
5. モデル・インフルエンサー起用
報酬を支払って人物に出演してもらう場合、契約が必要であることは言うまでもありません。特にSNSでの拡散や二次利用については、別途トラブルになりやすい項目です。
肖像権使用許諾契約書に盛り込むべき主な条項
肖像権使用許諾契約書で必須となる条項は以下のとおりです。実務で頻繁に問題になるポイントを軸に、詳細に解説します。
1. 目的条項
肖像を何のために利用するのかを明確にします。 例:広告素材としての利用/採用広報/ウェブサイト掲載など。
目的を曖昧にすると、当事者の解釈が分かれ、後のトラブルにつながりやすいため、具体的に記載することが重要です。
2. 使用範囲(媒体・地域・期間)
利用範囲は契約書の中でも特に重要です。 以下を必ず明記します。 ・使用媒体(SNS、YouTube、チラシ、広告全般等) ・使用地域(日本国内/全世界) ・使用期間(1年間/無期限等) ・編集・加工の可否(トリミング、色調補正、合成など)
特に「使用期間」は大きな争点になるため、具体的に定めておくべき要素です。
3. 再許諾の可否
広告代理店や制作会社に外注する場合、データ共有が必要になります。再許諾を全面禁止にすると業務が進まないため、実務では「必要な範囲でのみ再許諾可能」とするのが適切です。
4. 対価の金額・支払条件
モデル料や出演料を支払う場合は、 ・金額 ・支払日 ・支払方法 ・振込手数料の負担 を明確にします。
無償出演であっても「対価なし」と契約に明記します。
5. 編集加工の範囲
編集や加工の可否はトラブルの原因になります。特にSNS用の加工や、複数素材を合成する場合は、契約書で事前に承諾を得ておくべきです。
6. 適正使用義務(名誉毀損・侮辱の禁止)
乙(本人)の社会的評価を損なう利用は禁止事項として明記します。これは、肖像権の人格権的側面を尊重するための重要条項です。
7. 個人情報の管理
撮影データと個人情報(氏名、プロフィール等)を適切に管理する義務を記載します。
8. 使用停止・削除請求権
本人から「削除してほしい」と求められるケースは非常に多いです。 実務上の注意点: ・紙媒体は削除が不可能 ・SNS投稿は削除可能だが拡散済みのデータまでは制御できない ・動画の再編集はコストがかかる
これらの性質を踏まえ、契約書では「最大限努力する」と記載するケースが一般的です。
9. 契約終了後の取り扱い
期間終了後の利用は許容されるか、過去の投稿は残せるか、保存は可能かなどを明確にします。
10. 損害賠償条項
違反があった場合の損害賠償責任を定めます。 特に企業側(甲)が不適切に利用した場合には、重大な社会的影響が発生しうるため、慎重な運用が必要です。
11. 解除条項
・重大な契約違反 ・社会的信用の失墜 ・破産などの経済状況の変動 が生じた場合に解除できるようにします。
12. 準拠法・管轄裁判所
万一の紛争に備えて、管轄裁判所を明確にします。 当事者の拠点が東京・大阪など都市部であれば、そこを指定するのが一般的です。
条項ごとの実務ポイント
肖像権使用許諾契約書は、書式を整えるだけでは十分とは言えません。実務では、条文の運用において多くの判断が求められます。ここでは、現場で特に注意すべきポイントを解説します。
1. SNS利用時の再拡散リスク
SNS投稿の場合、一度投稿すると第三者により保存・再投稿されるリスクがあります。契約書で「SNS投稿の特性上、完全削除が保証できない旨」を明示し、誤解を防ぎます。
2. 無期限利用を設定する場合の注意
「無期限利用」は便利ですが、本人からの抵抗が大きいケースが多いです。企業イメージと整合性が取れなくなる可能性を考慮し、慎重に設定します。
3. 退職後の社員インタビューの扱い
採用広報動画やブログ記事は、退職後に削除を求められることが頻発します。 そのため、契約書では以下を定めることが有効です。 ・退職後も掲載を継続できる ・ただし本人の求めがあれば削除を検討する など、「双方が納得できるバランス」を重視した運用が求められます。
4. 類似素材の二次利用に関する注意
「別の広告で使いたい」「追加のLPで使いたい」などのケースでは、使用範囲を超える二次利用に該当します。契約書上の使用目的だけでなく、利用媒体の追加は再度許諾を得る必要があります。
5. モデル・インフルエンサー利用時のハッシュタグやSNS投稿条件
SNS施策では、 ・投稿の頻度 ・ハッシュタグ ・掲載位置 など、細かい条件を指定することがありますが、これらは契約書ではなく業務委託契約書(インフルエンサー契約書)に記載するのが一般的です。本契約はあくまで肖像の利用に関する条項に限定します。
肖像権使用許諾契約書を作成する際の注意点
1. 当事者が未成年の場合は必ず保護者の同意が必要
未成年者の肖像は、本人の署名に加えて保護者の同意書が必要です。これを怠ると契約自体が無効となる可能性があります。
2. 第三者が映り込む場合の配慮
店舗・イベントなどの撮影では、不特定多数の第三者が映り込みます。 ・映り込みを避けた構図にする ・同意を得る ・モザイク処理を施す などの対応が必要です。
3. 過度な加工は人格権侵害となる可能性がある
不自然な加工や合成は、本人の人格的利益を侵害する恐れがあります。契約書で「名誉・信用を害しない加工に限る」ことを定めることが一般的です。
4. データの保管方法を明確にする
写真・動画データは個人情報そのものです。暗号化やアクセス制限を行い、情報漏えいのリスクを最小化します。
5. 本人から削除を求められた場合の対応ルールを決める
特にSNS・YouTubeは企業のアーカイブとして重要ですが、本人の削除要請にも一定の配慮が必要です。 ・削除できる媒体 ・削除が困難な媒体 ・削除対応の期限 などを事前に決めておくことがトラブル防止につながります。
まとめ
肖像権使用許諾契約書は、人物の写真・映像・音声などの利用に関して当事者の権利を明確化し、トラブルを未然に防ぐための重要な契約書です。特に現代のビジネスでは、SNS投稿、YouTube動画、広告制作など、人物の肖像を扱うシーンが飛躍的に増加しています。その一方で、肖像の無断利用や不適切な加工をめぐるトラブルも増えており、契約書による事前の取り決めが不可欠です。
本記事で示したように、
・目的
・使用範囲(媒体・期間・地域)
・再許諾の可否
・加工編集の範囲
・使用停止請求
・契約終了後の扱い
など、重要条項を網羅的に整備することで、企業と本人双方が安心して肖像を利用できる環境が整います。mysignでは、契約書ひな形とともに、契約の電子化・締結管理が可能です。肖像利用に関する契約業務を効率的に行いたい場合や、法的リスクを低減したい場合には、併せて活用することをおすすめします。