肖像利用許諾契約書とは?
肖像利用許諾契約書とは、個人の顔写真、動画、氏名、芸名、音声、プロフィールなど、本人を特定できる情報を広告や広報活動、SNS運用、商品販売促進などに利用する際に締結する契約書です。近年は企業のマーケティング活動やSNS活用の拡大に伴い、モデル、インフルエンサー、タレント、従業員、顧客などの写真や動画を利用する機会が増えています。しかし、本人の同意なく肖像を利用すると、肖像権侵害やプライバシー侵害などの法的トラブルにつながる可能性があります。そのため、利用目的や利用期間、利用媒体、加工の可否などを事前に明確化するために、肖像利用許諾契約書が重要な役割を果たします。
肖像権とは?
肖像権とは、自分の容姿や姿態を無断で撮影されたり、公表されたりしない権利です。日本では法律上明文化されている権利ではありませんが、判例上認められており、人格権の一種として保護されています。肖像権には主に次のような要素があります。
- 無断撮影を拒否する権利
- 無断掲載を拒否する権利
- 本人の意思に反する利用を拒否する権利
- 名誉や社会的評価を害する利用を拒否する権利
特に企業活動では、撮影許可を得ていても利用許可まで取得しているとは限らないため、別途肖像利用許諾契約書を締結することが重要です。
肖像利用許諾契約書が必要となるケース
広告モデルの起用
企業が商品やサービスの広告にモデルを起用する場合、写真や動画をどこまで利用できるかを明確にする必要があります。
例えば、
- Web広告
- SNS広告
- テレビCM
- ポスター
- パンフレット
- 店頭POP
など利用媒体ごとに契約内容を定めることが一般的です。
インフルエンサーマーケティング
インフルエンサーが撮影した写真や動画を企業が二次利用するケースでは、利用範囲を明確にしておかなければトラブルになります。
例えば、
- 企業公式SNSへの転載
- 広告配信への転用
- ECサイトへの掲載
- 営業資料への利用
などです。
従業員紹介ページ
採用サイトや会社案内に従業員の写真を掲載する場合も肖像利用許諾が必要です。退職後の取り扱いについても事前に定めておくことでトラブルを防げます。
イベント・セミナー撮影
イベント参加者や登壇者の写真を広報活動へ利用する場合も対象となります。イベント終了後にSNSやホームページで利用するケースは非常に多く見られます。
顧客事例・体験談掲載
顧客インタビューや導入事例を公開する際に、顔写真や動画を掲載する場合にも利用許諾が必要です。
肖像利用許諾契約書に記載すべき主な条項
一般的な肖像利用許諾契約書では、次のような条項を定めます。
- 利用対象
- 利用目的
- 利用媒体
- 利用地域
- 利用期間
- 利用料
- 編集・加工の可否
- 二次利用
- 禁止事項
- 秘密保持
- 契約解除
- 損害賠償
- 反社会的勢力排除
- 合意管轄
これらを明確に定めることで、後日の紛争を防ぐことができます。
条項ごとの解説と実務ポイント
利用対象条項
まず何を利用するのかを明確にします。
対象としては、
- 写真
- 動画
- 音声
- 氏名
- 芸名
- プロフィール
などが一般的です。対象を明確にしないと、写真のみ許可したつもりが動画まで利用されたというトラブルが発生する可能性があります。
利用目的条項
利用目的はできる限り具体的に記載します。
例えば、
- 商品販売促進
- 企業広報
- 採用活動
- イベント告知
- SNSマーケティング
などです。利用目的が曖昧な場合、本人が想定していなかった用途へ転用されるリスクがあります。
利用媒体条項
利用媒体も重要です。
例えば、
- ホームページ
- X
- TikTok
- YouTube
- 広告配信サービス
- 紙媒体
などを具体的に列挙します。近年はSNSから広告へ転用されるケースが多いため、広告利用の有無は特に明記することが重要です。
利用期間条項
肖像利用に関するトラブルで最も多いのが利用期間です。
例えば、
- 3か月
- 6か月
- 1年間
- 3年間
- 無期限
など契約時に定めます。利用期間終了後も掲載を継続する場合は、更新方法についても定めておくべきです。
編集・加工条項
写真や動画は実務上、編集されることが一般的です。
例えば、
- トリミング
- 色調補正
- 字幕追加
- ロゴ挿入
- BGM追加
などがあります。
一方で、
- 顔の大幅な加工
- AIによる改変
- 本人の発言の改ざん
などはトラブルの原因となるため、事前承認を必要とするケースが多くあります。
二次利用条項
企業が一度取得した素材を別媒体でも利用したいケースは非常に多くあります。
例えば、
- SNS投稿を広告化する
- 広告素材を営業資料へ流用する
- ホームページへ転載する
などです。二次利用を認めるのか、追加許可が必要なのかを契約で明確に定めます。
禁止事項条項
次のような利用は禁止することが一般的です。
- 法令違反となる利用
- 誹謗中傷目的の利用
- 差別的表現への利用
- 政治活動への利用
- 宗教活動への利用
- 虚偽表示への利用
本人の社会的評価を守るためにも重要な条項です。
インフルエンサー案件で特に注意すべきポイント
近年増加しているのがSNSマーケティングに関する肖像利用トラブルです。
例えば、
- 企業が広告に転用した
- 契約終了後も掲載が継続された
- 別の商品広告に利用された
- 第三者へ素材提供された
などです。
そのためインフルエンサー案件では、
- 広告利用の有無
- 二次利用の範囲
- 利用期間
- 削除対応
- 再許諾の可否
を特に明確化する必要があります。
企業が肖像利用許諾契約書を作成するメリット
- 肖像権侵害リスクを軽減できる
- 利用範囲を明確化できる
- 広告運用がしやすくなる
- SNS運用のトラブルを防止できる
- 顧客や出演者との信頼関係を構築できる
- 法的根拠を確保できる
特に広告費を投下する案件では、利用権限が曖昧なまま運用すると大きな損失につながる可能性があります。
肖像利用許諾契約書を作成する際の注意点
- 撮影許可と利用許可は別であることを理解する
- 利用媒体を具体的に列挙する
- 利用期間を明確にする
- 広告利用の有無を記載する
- AI加工や生成コンテンツ利用の可否を定める
- 第三者への再許諾を制限する
- 契約終了後の取り扱いを定める
- 未成年者の場合は親権者同意を取得する
また、SNS広告や動画広告では利用範囲が拡大しやすいため、将来想定される利用方法も含めて契約内容を検討することが重要です。
まとめ
肖像利用許諾契約書は、写真や動画、氏名、プロフィールなどの肖像情報を適法かつ円滑に活用するための重要な契約書です。企業の広告活動、SNS運用、採用活動、イベント運営、インフルエンサーマーケティングなど、肖像を利用するあらゆる場面で必要となります。特に近年はSNS広告や動画コンテンツの普及により、肖像利用の範囲が広がっています。利用目的、利用媒体、利用期間、加工の可否、二次利用の範囲を明確に定めることで、肖像権侵害や利用範囲を巡るトラブルを未然に防ぐことができます。適切な肖像利用許諾契約書を整備することは、企業のリスク管理だけでなく、出演者や顧客との信頼関係を構築するうえでも重要な取り組みといえるでしょう。