収入・支出情報提供同意書(FP)とは?
収入・支出情報提供同意書(FP)とは、ファイナンシャルプランナー(FP)が相談者から給与、賞与、生活費、住宅費、教育費、保険料、ローン返済額などの情報提供を受け、家計分析や資金計画の作成などに利用することについて、相談者の同意を確認するための書面です。FP相談では、相談者の現在の収支状況を把握しなければ、家計改善や将来の資金計画について具体的な検討を行うことが難しくなります。そのため、相談内容に応じてさまざまな家計情報が必要になります。例えば、次のような情報です。
- 給与、賞与、事業所得、副業収入などの収入
- 所得税、住民税、社会保険料などの負担
- 家賃や住宅ローンなどの住居費
- 食費、水道光熱費、通信費などの生活費
- 教育費、医療費、介護費
- 生命保険料や損害保険料
- 各種ローンやクレジット等の返済額
- 貯蓄、積立て、投資に回している金額
こうした情報には、相談者の経済状況が具体的に表れるものが多く含まれます。そのため、単に口頭で情報提供を求めるだけではなく、どのような目的で情報を取得し、どの範囲で利用・管理するのかをあらかじめ明確にしておくことが重要です。収入・支出情報提供同意書を用意することで、FPと相談者の双方が情報提供の範囲や利用目的を確認したうえで相談を進めやすくなります。
収入・支出情報提供同意書が必要となるケース
収入・支出情報提供同意書は、相談者の家計情報を利用して分析や試算を行うFP相談で幅広く活用できます。
家計収支を分析する場合
家計改善の相談では、毎月どれだけの収入があり、何にどれだけ支出しているのかを確認することが基本となります。給与や賞与だけでなく、副業収入、住宅費、食費、保険料、教育費、ローン返済額などを把握することで、家計の収支構造を分析しやすくなります。このような相談では、相談者から比較的詳細な情報提供を受けるため、その利用目的を同意書によって明確にしておくことが有効です。
キャッシュフロー表を作成する場合
FP相談では、現在の家計状況だけではなく、将来の収入と支出を予測したキャッシュフロー表を作成することがあります。例えば、現在の収入、生活費、教育費、住宅ローン、保険料、将来の退職時期などをもとに、数年後・数十年後までの資金収支を試算します。ただし、キャッシュフロー表は一定の前提条件をもとに作成するものです。実際の収入や支出、物価、金利、税制、社会保障制度などは将来変化する可能性があります。そのため、情報提供への同意だけでなく、試算結果が将来の結果を保証するものではないことも確認しておくことが重要です。
住宅購入の資金計画を作成する場合
住宅購入相談では、住宅価格だけでなく、頭金、住宅ローン返済額、現在の生活費、将来の教育費などを含めて検討する必要があります。相談者の収入と支出を確認しなければ、無理のない住宅購入予算や返済計画を検討することは困難です。収入・支出情報提供同意書を利用することで、住宅購入相談に必要な家計情報をどのような目的で利用するのかを整理できます。
教育資金や老後資金を相談する場合
教育資金や老後資金について相談する場合にも、現在の収支状況の確認が重要です。現在どの程度の金額を貯蓄や資産形成に回せるのかを把握したうえで、将来必要となる資金とのバランスを検討するためです。特に長期間にわたる資金計画では多くの仮定が含まれるため、情報の利用目的と試算の性質を相談者に説明しておく必要があります。
収入・支出情報提供同意書に盛り込むべき主な内容
FP向けの収入・支出情報提供同意書には、単に情報提供へ同意する旨だけでなく、情報の取得から利用、管理までを想定した内容を盛り込むことが重要です。主な項目として、次のものが挙げられます。
- 情報提供の目的
- 提供する収入・支出情報の範囲
- 情報提供の任意性
- 提供情報の正確性
- 情報の利用目的
- 家族等に関する情報の取扱い
- 情報の管理方法
- 第三者への提供
- 外部サービス等の利用
- 分析及び試算の取扱い
- 専門業務との関係
- 資料の返還及び廃棄
- 同意の撤回
- 相談結果に関する非保証
- 損害等への対応
情報提供を受ける場面だけでなく、その後の分析、保管、第三者提供、相談終了後の取扱いまで整理しておくことがポイントです。
条項ごとの解説と実務ポイント
1. 目的に関する条項
最初に明確にしたいのが、なぜ相談者から収入・支出情報を提供してもらうのかという点です。FP相談では、家計分析、キャッシュフロー表の作成、住宅購入資金の検討、教育資金計画、老後資金計画など、相談内容によって情報の用途が異なります。そのため、同意書では、相談者の家計状況や資金収支を把握し、相談業務に必要な分析や試算を行うために情報を取得することを明示しておくとよいでしょう。目的を明確にすることで、相談者にとっても、なぜ給与や生活費などをFPへ伝える必要があるのかを理解しやすくなります。
2. 提供する情報に関する条項
収入・支出といっても、その範囲は非常に広いため、対象となる情報を具体的に示すことが重要です。収入には、給与や賞与だけでなく、事業所得、副業収入、年金、配当、賃料収入などが考えられます。支出についても、生活費だけでなく、税金、社会保険料、住宅ローン、保険料、教育費、医療費、介護費、資産形成に充てる金額などがあります。
また、FPが情報を確認する方法として、相談者から次のような資料の提供を受けることも考えられます。
- 給与明細
- 源泉徴収票
- 確定申告書
- 家計簿
- 預貯金口座の取引履歴
- クレジットカード利用明細
- ローン返済予定表
どの資料が必要になるかは相談内容によって異なるため、すべての資料を一律に提出させるのではなく、相談目的に応じて必要な範囲を検討することが大切です。
3. 情報提供の任意性に関する条項
相談者が、すべての家計情報をFPへ提供したいとは限りません。そこで、情報提供は相談者の意思に基づくものであり、提供を希望しない情報については拒否できることを明確にしておくことが考えられます。一方で、必要な情報が不足すると、FPが正確な分析や試算を行えない場合があります。そのため、情報提供を拒否できることだけでなく、情報が不足した場合には相談内容や分析精度に一定の制約が生じる可能性があることについても説明しておくことが重要です。
4. 情報の正確性に関する条項
FPによる家計分析は、基本的に相談者から提供された情報を前提として行われます。例えば、実際の生活費が月30万円であるにもかかわらず20万円として試算すれば、将来のキャッシュフローにも大きな差が生じます。そのため、相談者には可能な範囲で正確かつ最新の情報を提供してもらい、後から誤りや変更が判明した場合にはFPへ伝えてもらう仕組みを設けることが有効です。また、FPがすべての情報について独自に真正性を調査することを前提としない場合は、その点についても整理しておくと責任範囲が明確になります。
5. 利用目的に関する条項
収入・支出情報を何に利用するのかについても具体的に定めます。
例えば、
- 家計収支の把握・分析
- キャッシュフロー表の作成
- 住宅・教育・老後などの資金計画
- 貯蓄や資産形成に関する情報提供
- 各種シミュレーション
- 相談内容の記録
などが考えられます。相談目的と合理的な関連性のない用途へ無制限に利用するのではなく、相談業務に必要な範囲を明確にすることがポイントです。
6. 家族等に関する情報の取扱い
FP相談では、相談者本人だけでなく、配偶者や家族の収入・支出情報が必要になる場合があります。例えば、夫婦で住宅ローンを返済する場合や、世帯全体の老後資金を試算する場合です。相談者本人以外の情報を提供してもらう場合には、本人への説明や同意その他必要な対応についても意識する必要があります。家族の情報だから自由に提供できると考えるのではなく、誰の情報をどこまで取得する必要があるのかを相談内容に応じて判断することが大切です。
7. 情報管理に関する条項
収入・支出情報には、相談者の生活状況や経済状況を把握できる情報が多数含まれます。そのため、FP側では、漏えい、紛失、不正アクセスなどを防止するための適切な管理が必要です。紙資料を受け取る場合だけでなく、電子メール、オンラインストレージ、クラウドサービス、オンライン相談システムなどを利用する場合も想定して管理方法を検討しましょう。
8. 第三者提供に関する条項
FP相談の途中で、税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士などの専門家との連携が必要になることがあります。その際、相談者の収入・支出情報を専門家へ共有する可能性があります。このような場合には、原則として相談者の同意を得たうえで、相談に必要な範囲に限定して情報を提供する仕組みとしておくことが重要です。
9. 分析・試算に関する条項
FP相談では、現在の情報から将来の家計状況を予測することがあります。しかし、将来の給与、物価、金利、税制、社会保障制度、投資収益などを完全に予測することはできません。そのため、キャッシュフロー表やシミュレーションについては、相談者から提供された情報と一定の前提条件に基づく試算であることを明確にしておく必要があります。試算結果を将来の確定値として扱わないことを双方で確認しておけば、FP相談の性質について認識を合わせやすくなります。
10. 専門業務との関係に関する条項
収入・支出情報を分析していると、税務、法律、登記、社会保険などの専門的な問題が出てくることがあります。FPとして一般的な情報提供を行う場合と、法令上特定の資格を有する専門家のみが取り扱える業務とは区別しておくことが重要です。必要に応じて税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士などへの相談を案内できるよう、同意書や相談契約書に業務範囲を明記しておくとよいでしょう。
11. 同意の撤回に関する条項
情報提供への同意について、相談者が後から撤回を希望するケースも想定できます。そのため、将来に向かって同意を撤回できることや、撤回によって必要な情報を利用できなくなった場合には、相談業務を継続できない可能性があることを定めておく方法があります。同意撤回後にどのような対応を行うのかまで整理しておけば、実務上のトラブルを防ぎやすくなります。
12. 非保証に関する条項
FPが家計分析や資金計画を作成したからといって、その結果どおりに将来の家計が推移するとは限りません。収入の増減、転職、退職、病気、家族構成の変化、物価上昇、金利変動、制度改正など、家計にはさまざまな変動要因があります。そのため、家計改善、資産形成、投資成果、税負担の軽減など、特定の経済的成果を保証するものではないことを明確にしておくことが重要です。
収入・支出情報提供同意書と個人情報の取扱い
収入・支出情報提供同意書を作成する際には、個人情報の取扱いに関するルールとの整合性も確認する必要があります。FP事業者が別途プライバシーポリシーや個人情報取扱規程、個人情報提供同意書などを設けている場合には、それぞれの内容が矛盾しないようにしましょう。
特に確認したいのは、
- 取得する情報の種類
- 情報の利用目的
- 第三者提供の条件
- 外部事業者やクラウドサービスの利用
- 情報の保存方法
- 相談終了後の削除・廃棄
などです。同意書だけを独立して作成するのではなく、実際のFP相談における情報管理の運用と一致させることが重要です。
収入・支出情報提供同意書を作成する際の注意点
必要以上の情報を一律に求めない
FP相談だからといって、あらゆる収入・支出情報が常に必要になるわけではありません。例えば、特定の住宅購入計画について簡易的な相談をする場合と、数十年間のライフプランを作成する場合では、必要となる情報量が異なります。相談目的を明確にし、その目的に応じた範囲で情報提供を求めることが大切です。
相談契約書との内容を統一する
FPと相談者との間で別途、相談契約書や顧問契約書を締結している場合には、その内容との整合性も重要です。例えば、相談契約書では第三者提供を行わないとしているのに、情報提供同意書では自由に第三者提供できるようになっていると、契約関係が分かりにくくなります。情報提供同意書、相談契約書、利用規約、プライバシーポリシーなどを一体的に確認しましょう。
実際の情報管理方法と一致させる
同意書に厳格な情報管理方法を記載していても、実際の業務で実施されていなければ意味がありません。電子データをどこに保存するのか、誰が閲覧できるのか、紙資料をどのように保管するのか、相談終了後にいつ削除するのかなど、実際の運用を踏まえて内容を決める必要があります。
家族の情報を取り扱う場合に注意する
世帯単位でライフプランを作成すると、相談者本人以外の収入、勤務状況、保険、教育費などの情報が必要になる場合があります。この場合には、相談者本人の同意だけで十分なのかを機械的に判断するのではなく、取得する情報の内容や利用方法に応じて適切な対応を検討することが大切です。
試算結果を保証と受け取られないようにする
キャッシュフロー表などでは具体的な金額が表示されるため、相談者が将来確実にその結果になると受け取ってしまう可能性があります。FPは、どのような前提条件で試算しているのかを説明し、実際の結果は経済環境や相談者の状況によって変化することを明確にしましょう。
法令やサービス内容の変更に応じて見直す
FP事業者が取り扱う情報や相談方法は、事業の拡大に伴って変化することがあります。対面相談だけだった事業者がオンライン相談を開始したり、新たなクラウドサービスを導入したり、外部専門家との連携を開始したりすることもあります。サービス内容や情報管理方法が変わった場合には、収入・支出情報提供同意書についても定期的に見直すことが重要です。
収入・支出情報提供同意書と家計情報提供同意書の違い
収入・支出情報提供同意書は、主として家計におけるお金の出入りに関する情報を対象とします。一方、FP相談では、収入・支出以外にも預貯金、不動産、有価証券、保険、借入金など、さまざまな情報を利用することがあります。そのため、相談業務の内容によっては、収入・支出情報だけを対象とした同意書ではなく、家計情報提供同意書や資産・負債情報提供同意書などと組み合わせて利用する方法も考えられます。複数の同意書を使用する場合には、それぞれが対象とする情報を整理し、同じ事項について異なるルールが記載されないよう注意しましょう。
収入・支出情報提供同意書を利用するメリット
収入・支出情報提供同意書を用意する最大のメリットは、相談者とFPの間で情報の取扱いについて共通認識を形成できることです。
FP側にとっては、
- どの情報を取得するのか
- 何のために利用するのか
- どのように管理するのか
- 第三者へ提供する可能性があるのか
- 分析や試算結果をどのように扱うのか
といった事項をあらかじめ整理できます。相談者側にとっても、自分の家計情報がどのように扱われるのかを確認してから情報を提供できるため、安心して相談を進めやすくなります。また、相談終了後に情報の利用目的や試算結果をめぐって認識の違いが生じることを防ぐという意味でも、書面による確認は有効です。
まとめ
収入・支出情報提供同意書(FP)は、FPが相談者から給与、賞与、生活費、住宅費、教育費、保険料、ローン返済額などの情報提供を受け、家計分析や資金計画などに利用する際のルールを明確にするための書面です。FP相談では、家計収支を正確に把握することが相談の基礎となります。一方、収入や支出に関する情報は相談者の経済状況を具体的に示すため、その取得や利用、管理について明確なルールを設けることが重要です。同意書には、情報提供の目的、対象となる情報、提供の任意性、利用目的、情報管理、第三者提供、分析・試算、同意撤回、非保証などを盛り込み、実際の相談業務や情報管理方法と整合させる必要があります。また、相談内容によっては、家計情報提供同意書、資産・負債情報提供同意書、保険契約情報提供同意書、相談契約書、プライバシーポリシーなどとの整合性も確認しておくとよいでしょう。収入・支出情報提供同意書を適切に整備することで、FPは情報を取り扱う範囲を明確にし、相談者は自らの情報がどのような目的で利用されるのかを理解したうえで相談を進めることができます。