相続相談契約書(FP)とは?
相続相談契約書(FP)とは、ファイナンシャル・プランナー(FP)が顧客から相続対策や財産承継、生命保険、相続後の生活設計などに関する相談を受ける際に、相談業務の内容や報酬、責任範囲などを定める契約書です。相続に関する相談では、預貯金や不動産、生命保険、有価証券などの資産だけでなく、家族構成、将来の生活資金、相続人への財産承継など、幅広い事項を検討することがあります。一方、相続には法律や税務、登記などの専門的な問題も関係します。FPが相談を受ける場合には、FPとして提供する一般的な情報や資金計画に関する助言と、弁護士・税理士・司法書士などの専門家が担当する業務との範囲を明確にすることが重要です。相続相談契約書では、主に次のような事項を定めます。
- 相続相談の目的
- FPが担当する相談業務の内容
- 業務範囲と専門資格者が担当する業務との区分
- 相談の実施方法
- 顧客から提供してもらう資料や情報
- 相談料と支払方法
- 弁護士・税理士・司法書士等との連携
- 金融商品や税金に関する情報提供の範囲
- 成果を保証しないこと
- 秘密保持・個人情報の取扱い
- 契約解除や損害賠償
このような事項を書面で明確にすることで、FPと相談者との間で、どこまで相談できるのか、何を依頼したのかについて認識の相違が生じることを防ぎやすくなります。
相続相談契約書(FP)が必要となるケース
相続相談契約書は、FPが相続に関連する継続的又は有償の相談サービスを提供する場合に活用できます。
1. 生前の相続対策について相談を受ける場合
相続が発生する前から、所有財産を整理し、将来どのように家族へ財産を承継するか検討したいという相談があります。FPは、家族構成や資産状況、収支状況などを整理し、将来必要となる生活資金も踏まえながら相続対策を検討する支援を行うことがあります。このような相談では、相談内容が広範囲になりやすいため、契約書によって業務範囲を明確にしておくことが重要です。
2. 生命保険を活用した相続対策について相談を受ける場合
相続対策では生命保険が検討される場合があります。ただし、FPによる一般的な情報提供と、具体的な金融商品の募集・勧誘等とは区別して考える必要があります。そのため、契約書では、金融商品等についての情報提供が法令上行うことのできる範囲に限られることや、最終的な契約判断は相談者自身が行うことなどを明確にしておくことが考えられます。
3. 相続後の生活設計について相談を受ける場合
相続相談は、財産を誰が取得するかという問題だけではありません。配偶者などが相続後にどの程度の生活資金を確保できるのか、住宅費や医療費、介護費などを含めた長期的な資金計画を検討するケースもあります。FPは、このような生活設計や資金計画について専門性を活かしやすいため、相続後のライフプラン相談にも相続相談契約書を活用できます。
4. 他の専門家と連携して相続対策を進める場合
相続では、FPだけで対応を完結できない問題も少なくありません。
例えば、
- 遺産分割などの法律問題
- 相続税や贈与税などの税務問題
- 不動産の相続登記
- 遺言や相続手続に関する専門的な対応
などについて、弁護士、税理士、司法書士等への相談が必要になる場合があります。相続相談契約書に専門家との連携について定めておけば、FPが担当する部分と他の専門家へ相談する部分を整理しやすくなります。
相続相談契約書(FP)に盛り込むべき主な条項
相続相談契約書には、次のような条項を盛り込むことが考えられます。
- 目的
- 相談業務の内容
- 業務範囲
- 相談の実施方法
- 資料及び情報の提供
- 相談料及び支払方法
- 追加業務
- 専門家との連携
- 金融商品等に関する情報提供
- 相続税等に関する取扱い
- 法的事項に関する取扱い
- 相談者による自己決定
- 成果等の非保証
- 秘密保持
- 個人情報の取扱い
- 資料等の管理
- 禁止事項
- 契約解除
- 反社会的勢力の排除
- 損害賠償
- 契約期間
- 契約内容の変更
- 協議事項
- 準拠法及び合意管轄
特に重要なのが、相談業務の範囲、専門家との役割分担、報酬、成果の非保証、秘密保持です。
条項ごとの解説と実務ポイント
1. 目的条項
目的条項では、FPが相続や相続対策、財産承継などに関する相談・情報提供を行う契約であることを明確にします。単に「相続について相談する」とするのではなく、ファイナンシャル・プランニングに関する相談契約であることを示しておくと、契約の性質が分かりやすくなります。
2. 相談業務の内容
相続相談では、依頼者がFPに何を依頼できるのかを具体的に定めることが重要です。
例えば、
- 家族構成や相続に関する希望の確認
- 預貯金・有価証券・不動産・保険などの財産情報の整理
- 相続発生時に想定される資金需要の分析
- 生命保険などを利用した相続対策に関する一般的な情報提供
- 相続後の生活設計や資金計画に関する助言
- 専門家への相談が必要な事項の整理
などを定める方法があります。業務内容を具体化しておけば、契約締結後に「これも相談料に含まれていると思っていた」といったトラブルを防ぎやすくなります。
3. FPの業務範囲
相続相談契約では非常に重要な条項です。相続には、法律、税務、登記、金融など複数の専門分野が関係します。FPとしての相談業務と、資格を有する専門家が担当すべき業務を混同しないようにする必要があります。契約書では、FPが担当する業務を一般的な相談、情報提供、資産・生活設計の整理などに限定し、法令上特定の資格を有する者のみが行える業務を契約対象から除外することが考えられます。
4. 資料・情報の提供
適切な相続相談を行うためには、相談者の資産や家族状況などを把握する必要があります。
例えば、
- 預貯金
- 有価証券
- 不動産
- 生命保険
- 借入金その他の負債
- 収入・支出
- 家族構成
などの情報が必要になる場合があります。FPは基本的に相談者から提供された情報を前提として分析するため、資料に不足や誤りがあれば、提案内容にも影響する可能性があります。そのため、相談者には可能な範囲で正確かつ最新の情報を提供してもらうことを契約上明確にしておくことが重要です。
5. 相談料・追加業務
相談料については、金額だけでなく、支払期限や支払方法、実費負担などについても定めます。また、当初予定していた相談内容から業務が拡大する場合に備えて、追加業務について別途報酬を協議する旨を定めておくと実務上便利です。定額相談、時間制、継続サポートなど、FPによって料金体系が異なるため、実際のサービス内容に合わせた調整が必要です。
6. 専門家との連携
相続相談では、FPが相談内容を整理した結果、弁護士や税理士、司法書士等への相談が必要になることがあります。
契約書では、
- 専門家への相談を提案できること
- 専門家への正式な依頼は原則として相談者自身が判断すること
- 専門家報酬はFPへの相談料とは別であること
- 相談者の情報を専門家へ提供する場合の取扱い
などを明確にしておくことが考えられます。特に相談者の財産状況や家族関係は重要な個人情報を含むため、第三者への情報提供について適切なルールを設けることが重要です。
7. 相続税・贈与税等に関する情報提供
相続相談では、「相続税はいくらになるのか」「生前贈与をしたほうがよいか」といった税金に関する質問が生じやすくなります。FPが税金について説明する場合には、一般的な制度や情報の提供と、個別具体的な税務相談等を区別する必要があります。契約書でも、具体的な税務判断が必要となる場合には税理士等への相談を促す仕組みを設けておくことが重要です。
8. 法律事項に関する情報提供
遺言、遺産分割、相続放棄、遺留分などは、相続相談で頻繁に登場するテーマです。FPが一般的な制度について情報提供することと、個別の紛争について法律判断を行ったり法律事務を取り扱ったりすることは区別する必要があります。そのため、契約書上でも法律事項についての情報提供の範囲を整理しておくことが重要になります。
9. 相談者の自己決定
FPは相続対策について複数の選択肢を提示することがありますが、最終的な意思決定を行うのは相談者です。
例えば、
- 生命保険へ加入する
- 保有資産を売却する
- 生前贈与を検討する
- 遺言作成について専門家へ相談する
- 金融商品を購入又は解約する
といった行為は、相談者自身の判断によって行う必要があります。FPの提案が意思決定を補助するものであることを契約上明確にすることで、役割分担が分かりやすくなります。
10. 成果等の非保証
相続対策を行ったからといって、必ず相続税が減少したり、家族間の相続トラブルを防止できたりするとは限りません。また、相談時点では適切だった提案でも、その後の法改正、税制改正、資産価格、金融市場、家族関係などの変化によって結果が変わる可能性があります。
そのため、契約書には、
- 特定の節税効果を保証しない
- 特定の財産承継の実現を保証しない
- 相続人間の紛争が発生しないことを保証しない
- 将来の経済環境や法制度の変化によって前提条件が変わる可能性がある
といった点を整理しておくことが重要です。
11. 秘密保持
相続相談では、通常のライフプラン相談以上にセンシティブな情報を取り扱う可能性があります。財産額だけでなく、家族関係、財産を誰に承継させたいのか、家族間の事情などをFPが知ることもあります。そのため、相談によって知り得た非公知情報について、正当な理由なく第三者へ開示・漏えいしないことを定める秘密保持条項は重要です。秘密情報の取扱いについて契約上明確化する考え方は、一般的な契約書における秘密保持条項でも重視されています。
12. 個人情報の取扱い
相続相談では、相談者本人だけでなく、配偶者、子、親など家族に関する情報を取り扱うことがあります。
FP側では、取得した個人情報について、
- 相談業務の実施
- 相談者への連絡
- 相談記録の管理
- 契約履行に必要な事務
など利用目的を整理し、適切に管理することが重要です。専門家との連携などにより第三者へ情報を提供する可能性がある場合についても、その取扱いをあらかじめ整理しておく必要があります。
13. 契約解除
相談者が料金を支払わない場合や、虚偽資料を提供した場合、FPに違法行為を求めた場合など、契約の継続が困難になるケースも考えられます。契約書では、通常の契約違反について一定期間を設けて是正を求める方法と、重大な違反について直ちに解除できる方法を定めておくことが考えられます。契約途中で終了した場合の相談料についても、実施済み業務の扱いや返金の有無などを、実際の料金体系に合わせて具体化しておくとよいでしょう。
相続相談契約書(FP)を作成する際の注意点
FPの業務範囲を広げすぎない
相続は複数の専門資格と関係する分野です。そのため、相続相談契約書では「相続に関するすべての手続を行う」といった包括的な表現を避け、FPとして実際に提供するサービス内容を具体的に記載することが重要です。特に税務や法律、登記など専門資格との関係が生じる業務については、必要に応じて適切な専門家と連携できる契約設計が求められます。
サービス内容に合わせて相談料を具体化する
FPの相続相談には、1回のみのスポット相談から数か月にわたる継続サポートまでさまざまな形があります。
例えば、
- 初回相談料
- 時間制相談料
- 相続対策プラン作成料
- 継続相談料
- 追加相談料
- 交通費等の実費
などを必要に応じて設定します。料金トラブルを防止するためには、契約締結時点で「どこまでが基本料金に含まれるか」を明確にすることがポイントです。
金融商品の販売等を伴う場合は別途確認する
FPが相続相談とあわせて保険や金融商品に関するサービスを提供する場合には、相談契約だけでなく、実際に行う業務に適用される法令や資格・登録等を確認する必要があります。相続相談契約書を締結したことによって、本来必要となる資格や登録等が不要になるわけではありません。
家族全体の相談では依頼者を明確にする
相続相談では、親子や夫婦が一緒に相談するケースがあります。その場合、「誰がFPとの契約当事者なのか」「誰の利益を中心として助言するのか」「誰が相談料を支払うのか」を曖昧にしないことが重要です。家族間で利益が一致しない可能性がある案件では、より慎重な対応が必要になります。
相談記録を適切に残す
相続相談では、相談時点の財産状況や家族構成を前提として助言することがあります。後から状況が変化すると、当初の提案が適切ではなくなる可能性もあります。
そのため、
- 相談実施日
- 相談者から提供された情報
- 提示した選択肢
- 専門家への相談を案内した事項
- 相談者が選択した内容
などについて、必要な範囲で記録を残しておくことが実務上重要です。
相続相談契約書とライフプラン相談契約書の違い
ライフプラン相談契約書が、住宅購入、教育資金、老後資金、保険、資産形成など生活全般の資金計画を対象とするのに対し、相続相談契約書は相続・財産承継に重点を置いた契約書です。
相続相談では特に、
- 保有財産の整理
- 家族・推定相続人に関する情報整理
- 相続発生後の資金需要
- 生命保険等を活用した対策
- 相続後の生活資金
- 弁護士・税理士・司法書士等との役割分担
などが重要になります。通常のライフプラン相談より法律・税務など他分野との接点が多いため、業務範囲を明確にした契約書を使用する意義も大きくなります。
相続相談契約書を締結するメリット
相続相談契約書を作成する最大のメリットは、相談者とFP双方がサービスの範囲を確認した上で相談を開始できることです。口頭だけで依頼内容を決めてしまうと、「相続税の計算までしてもらえると思っていた」「専門家への依頼費用も相談料に含まれていると思っていた」といった認識の違いが生じる可能性があります。
契約書によって、
- FPが何をするのか
- FPが何をしないのか
- 相談者が提供する情報は何か
- 料金はいくらか
- 追加料金が発生する場合はあるか
- 専門家への相談が必要になった場合はどうするか
を明確にしておけば、サービス内容を双方で共有しやすくなります。また、相続相談では財産情報や家族情報など重要な情報を取り扱うため、秘密保持や個人情報の取扱いを契約書で明確にできる点もメリットです。
まとめ
相続相談契約書(FP)は、ファイナンシャル・プランナーが相続対策、財産承継、生命保険、相続後の生活設計などについて相談サービスを提供する際に、その業務内容や責任範囲を明確にするための契約書です。特に相続分野では、法律、税務、登記、金融など複数の専門領域が関係するため、FPとして対応する範囲と、弁護士・税理士・司法書士等への相談が必要となる範囲を整理しておくことが重要です。また、相談料、追加業務、資料提供、成果の非保証、秘密保持、個人情報の取扱い、契約解除などをあらかじめ契約書に定めておくことで、相談者とFPとの認識の相違を防ぎ、円滑な相談業務につなげやすくなります。相続相談サービスの内容や料金体系はFPごとに異なるため、実際に使用する場合には、自身が提供するサービスや保有資格、専門家との連携体制などに合わせて条項を調整することが大切です。