資産・負債情報提供同意書(FP)とは?
資産・負債情報提供同意書(FP)とは、ファイナンシャルプランナー(FP)が相談者から預貯金、有価証券、不動産、住宅ローン、各種借入金などの情報提供を受ける際に、その提供範囲や利用目的、管理方法などについて相談者の同意を確認するための書面です。FPが家計改善、資産形成、住宅購入、教育資金、老後資金などについて具体的な相談を行う場合、収入や支出だけでなく、相談者が現在どの程度の資産を保有し、どの程度の負債を抱えているのかを把握することが重要になります。例えば、同じ年収の相談者であっても、十分な預貯金がある場合と、多額の住宅ローンやその他の借入金がある場合では、適切な資金計画は大きく異なります。そのため、資産と負債を一体的に把握することは、ライフプランやキャッシュフローを検討するうえで重要な基礎となります。
一方、資産・負債情報には、相談者の財産状況を具体的に示す重要な情報が含まれます。そのため、FPが情報提供を求める場合には、
- どのような情報を提供してもらうのか
- 何のために情報を利用するのか
- 提供された情報をどのように管理するのか
- 第三者に関する情報をどのように扱うのか
- 相談者が情報提供や同意を撤回できるのか
といった事項をあらかじめ明確にしておくことが重要です。資産・負債情報提供同意書を作成しておけば、FPと相談者の双方が情報提供の範囲と目的を確認したうえで相談を開始でき、後日の認識違いやトラブルの予防につながります。今回のひな形も、契約・同意内容を体系的に整理するというプロジェクトの方針に沿って構成しています。
資産・負債情報提供同意書が必要となるケース
資産・負債情報提供同意書は、FPが相談者の財産状況を踏まえて具体的な分析や試算を行う場合に活用できます。
1. ライフプランを作成する場合
結婚、住宅購入、子どもの教育、退職などを含めたライフプランを作成する場合には、現在の預貯金額や保有資産、住宅ローンなどを把握する必要があります。現在の資産残高を確認しないまま将来の収支だけを計算すると、相談者の実際の財務状況と異なる試算になる可能性があります。そのため、ライフプラン作成前に資産・負債情報の提供について同意を得ておくことが考えられます。
2. 資産形成について相談する場合
資産形成の相談では、現在保有している預貯金、株式、投資信託、債券などの状況を確認することがあります。既存資産の種類や金額を把握することで、相談者の現在の財務状況を踏まえた情報提供や資金計画を行いやすくなります。ただし、FP業務として一般的な情報提供を行うことと、法令上の登録等を必要とする金融商品に関する専門業務を行うことは区別する必要があります。
3. 住宅購入や住宅ローンについて相談する場合
住宅購入相談では、住宅価格だけでなく、自己資金として利用できる預貯金、既存の借入金、住宅ローンの借入予定額などを確認する必要があります。
すでに住宅ローンを利用している相談者の場合には、
- 住宅ローン残高
- 適用金利
- 毎月の返済額
- 残存返済期間
- 固定金利・変動金利等の条件
などを確認するケースもあります。こうした情報をFPに提供する目的を明確にするためにも、同意書を用意しておくと実務上整理しやすくなります。
4. 老後資金について相談する場合
老後資金の相談では、現在の預貯金や金融資産に加えて、退職金、企業年金、個人型確定拠出年金など、将来受領することが見込まれる資産を確認する場合があります。一方、退職後も住宅ローンなどの返済が続く場合には、その負債も考慮する必要があります。資産だけを見るのではなく、負債を含めて総合的に確認することが重要です。
5. 家計改善や借入返済について相談する場合
家計改善では、毎月の収支だけではなく、借入金残高や返済額を確認する場合があります。住宅ローン、自動車ローン、教育ローンなど複数の負債が存在する場合には、それぞれの残高や返済条件を整理することで、家計全体の状況を把握しやすくなります。
資産・負債情報提供同意書に盛り込むべき主な事項
資産・負債情報提供同意書には、単に情報提供に同意する旨だけを書くのではなく、提供対象や利用目的などを具体的に定めることが重要です。主な事項としては、次のようなものがあります。
- 情報提供の目的
- 提供対象となる資産・負債情報
- 情報の提供方法
- 情報の利用目的
- 情報提供の任意性
- 提供情報の正確性
- 資産価額等の取扱い
- 第三者に関する情報の取扱い
- 秘密保持
- 個人情報の取扱い
- 資料等の管理
- 情報更新の取扱い
- 相談結果の取扱い
- 専門業務との関係
- 同意の撤回
- 免責
これらを整理しておくことで、相談者にとっても、何をどこまでFPへ伝えるのかが分かりやすくなります。
条項ごとの解説と実務ポイント
1. 提供する情報
資産・負債情報提供同意書では、提供対象となる情報を具体的に示すことが重要です。資産情報としては、預貯金だけではなく、株式、投資信託、債券、保険、不動産などが考えられます。また、相談内容によっては、退職金や企業年金など将来的に受領することが見込まれる資産を確認する場合もあります。負債については、住宅ローン、自動車ローン、教育ローンなどのほか、その他の借入金や債務が対象になることがあります。さらに、単なる残高だけではなく、借入金利、返済期間、毎月の返済額などが必要になるケースもあります。どの情報まで必要なのかは相談内容によって異なるため、すべての相談者から一律に詳細な情報を取得するのではなく、本相談に必要な範囲を意識することがポイントです。
2. 情報の利用目的
資産・負債情報を取得する場合には、その利用目的を明確にする必要があります。
例えば、
- 現在の資産・負債状況の把握
- 家計や財務状況の分析
- キャッシュフロー表の作成
- 住宅資金や教育資金の試算
- 老後資金の試算
- 資産形成に関する情報提供
などが考えられます。相談者から見れば、自分の預金残高や借入残高を伝えることには一定の心理的抵抗が生じる場合があります。そのため、FP側が利用目的を具体的に説明することは、相談者の理解を得るうえでも重要です。
3. 情報提供の任意性
相談者が提供を希望しない情報について、どのように取り扱うのかも明確にしておくことが望まれます。もっとも、相談に必要な情報が提供されなければ、正確な分析や試算が難しくなる場合があります。そのため、同意書では、情報提供を希望しない場合にはその旨を申し出られることと、その結果として相談内容が限定される可能性があることを併せて説明しておく方法があります。これにより、相談者自身が情報提供の必要性を理解したうえで判断できます。
4. 提供情報の正確性
FPによる試算や分析は、基本的に相談者から提供された情報を前提として行われます。例えば、実際の住宅ローン残高が2,000万円であるにもかかわらず、1,000万円として試算すれば、将来のキャッシュフローにも大きな違いが生じます。そのため、相談者には把握している範囲で正確かつ最新の情報を提供してもらうことが重要です。一方、FPが相談者のすべての財産や借入状況について独自に調査することは通常想定されないため、提供された情報を前提として相談を行うことも明確にしておくとよいでしょう。
5. 資産価額の取扱い
資産の中には、価額が常に一定とは限らないものがあります。株式、投資信託、不動産などは、市場環境によって評価額が変化します。また、外貨建て資産であれば為替相場によって円換算額も変動します。そのため、FPが相談時に示した資産評価額を将来も維持できると誤解されないよう、一定時点の評価額であることを明確にしておくことが重要です。
6. 第三者に関する情報
FP相談では、相談者本人だけでなく、配偶者や家族の資産情報が必要になることがあります。例えば、夫婦共同で住宅購入を検討している場合には、配偶者の預貯金や住宅ローンなどについて確認するケースがあります。このような場合、相談者本人が第三者の財産情報を自由に提供してよいとは限りません。そのため、第三者に関する情報を提供する場合には、必要な同意その他の適切な権限を確保してもらう旨を定めておくことが考えられます。
7. 秘密保持・個人情報の取扱い
資産・負債情報は、相談者にとって重要性の高い情報です。預金残高、金融資産、不動産、借入金などの情報が不必要に第三者へ知られることがないよう、FP側で適切に管理する必要があります。同意書では、法令に基づく場合や相談者本人の同意がある場合などを除き、第三者に開示・漏えいしないことを明確にしておくことが重要です。また、個人情報に該当する情報については、FP事業者のプライバシーポリシー等との整合性も確認しておきましょう。
8. 資料等の管理
FP相談では、相談者から口頭で情報を聞くだけでなく、残高資料、保険証券、住宅ローン返済予定表などの提示を受ける場合があります。紙で受領する場合だけでなく、メールやオンライン相談システムなどを通じて電子データを受領するケースも考えられます。そのため、資料の保存、返却、削除、廃棄について事業者側の運用ルールを整備しておくことが重要です。
9. 情報の更新
継続的なFP相談では、一度提供された情報がその後も正しいとは限りません。
例えば、
- 預貯金が増減した
- 住宅を購入した
- 住宅ローンを借り入れた
- ローンを完済した
- 金融資産を売却した
- 相続等により資産が増加した
など、相談者の資産・負債状況は変化します。古い情報を前提として相談を続ければ、現在の財務状況に適合しない分析になる可能性があります。そのため、継続相談では重要な変更が生じた場合の情報更新について定めておくと実務上有効です。
10. 相談結果の取扱い
FPが行うキャッシュフロー分析や将来資産の試算には、一定の前提条件が設定されます。しかし、金利、物価、運用状況、不動産価格、収入などは将来変動する可能性があります。したがって、相談時の試算結果と実際の将来結果が一致するとは限りません。同意書では、FPによる分析や試算が将来の資産価値や運用成果などを保証するものではないことを明確にしておくことが重要です。
11. 専門業務との関係
FP相談では、税金、相続、金融商品、不動産など幅広いテーマが取り上げられます。しかし、相談内容によっては、弁護士、税理士、司法書士その他の専門資格者による対応が必要になる場合があります。そのため、FPへの資産・負債情報の提供に同意したからといって、FPがあらゆる法律・税務・金融関連業務を行えるという意味ではないことを整理しておく必要があります。必要に応じて専門家への相談を案内できるようにしておくことも重要です。
12. 同意の撤回
相談者が一度情報提供に同意した後、事情の変化などにより情報利用を希望しなくなる場合も考えられます。そのため、法令や契約上の制限がない範囲で、将来に向かって同意を撤回できることを定める方法があります。ただし、資産・負債情報を利用できなくなれば、FPが適切な分析を継続できない可能性があります。そこで、同意撤回によって相談業務の全部又は一部を中止する場合があることも併せて明記しておくことが重要です。
資産・負債情報提供同意書を作成する際の注意点
必要以上の情報を取得しない
FP相談だからといって、相談者のすべての資産・負債情報が常に必要になるわけではありません。例えば、特定の住宅購入資金について簡易的な相談をするだけであれば、相談内容によっては一部の情報だけで足りることもあります。相談目的に照らして必要な情報を整理し、必要な範囲で情報提供を求めることが重要です。
同意書だけで個人情報管理を完結させない
資産・負債情報提供同意書を取得したからといって、情報管理上の対応がすべて完了するわけではありません。FP事業者側では、プライバシーポリシー、個人情報管理体制、電子データの保存方法、資料廃棄ルールなどについても整備する必要があります。同意書と実際の運用内容に矛盾が生じないようにすることがポイントです。
家族の情報を取得する場合は注意する
ライフプラン相談では、配偶者や家族の情報が必要になることがあります。本人以外の資産・負債情報を取得する場合には、その情報を誰から、どのような権限に基づいて取得するのかを確認する必要があります。夫婦相談や世帯単位のライフプラン相談を提供するFP事業者では、特に整理しておきたいポイントです。
相談契約書など他の書面との整合性を確認する
資産・負債情報提供同意書は、単独で使用する場合もありますが、FP相談契約書、相談申込書、個人情報取扱同意書、オンライン相談同意書などと併用するケースもあります。
複数の書面を使用する場合には、
- 個人情報の利用目的
- 第三者提供
- 秘密保持
- 資料の保存期間
- 相談結果に関する免責
- 同意撤回時の取扱い
などについて内容が矛盾しないよう確認しましょう。
投資・税務・法律等の専門業務との境界を明確にする
相談者から資産情報の提供を受けると、金融商品、税金、相続、不動産などについて具体的な質問を受ける可能性があります。しかし、FP資格を有していることだけを理由として、法令上別途資格・登録等を必要とする業務を当然に行えるわけではありません。実際のサービス内容に応じて業務範囲を整理し、必要な場合には適切な専門家につなぐ体制を設けておくことが重要です。
資産・負債情報提供同意書と家計情報提供同意書の違い
FP相談では、資産・負債情報だけでなく、家計に関する情報を取得する場合もあります。家計情報では、一般的に毎月の収入、生活費、住居費、教育費、保険料など、一定期間に発生する収支を中心に確認します。これに対して資産・負債情報は、一定時点において相談者がどの程度の財産と債務を保有しているのかを確認することが中心です。例えば、毎月5万円の黒字があるという収支情報だけでは、その相談者が預貯金を1,000万円保有しているのか、住宅ローンを3,000万円抱えているのかは分かりません。FPが相談者の財務状況を総合的に分析する場合には、収入・支出と資産・負債の双方を確認することが重要になります。
資産・負債情報提供同意書を利用するメリット
資産・負債情報提供同意書を用意する最大のメリットは、FPと相談者の間で情報提供に関する認識を明確にできることです。口頭だけで資産情報を聞き取った場合、後になって相談者から「その情報まで利用されるとは思わなかった」「家族の情報を保存されるとは思わなかった」といった認識の相違が生じる可能性があります。
あらかじめ書面で、
- 提供する情報
- 利用する目的
- 管理方法
- 相談結果の前提
- 情報更新の必要性
- 同意撤回の方法
などを確認しておけば、相談者も内容を理解したうえで情報を提供しやすくなります。FP側にとっても、どのような条件で情報提供を受けたのかを記録として残すことができ、相談業務の適切な運営につながります。
まとめ
資産・負債情報提供同意書(FP)は、ファイナンシャルプランナーが相談者から預貯金、有価証券、不動産、住宅ローン、各種借入金などの情報提供を受ける際に、その範囲や利用目的、取扱方法を明確にするための重要な書面です。ライフプラン、住宅購入、資産形成、教育資金、老後資金などの相談では、現在の資産と負債を正確に把握することが分析の出発点となります。一方で、これらの情報は相談者の財産状況に直接関係するため、必要な範囲を明確にし、適切な管理方法を整備することが欠かせません。特に、提供対象となる情報、利用目的、情報提供の任意性、情報の正確性、秘密保持、個人情報の取扱い、第三者情報、情報更新、相談結果の非保証、専門業務との関係、同意撤回などをあらかじめ整理しておくことが重要です。また、FP相談契約書や個人情報取扱同意書などを併用する場合には、それぞれの書面の内容を整合させ、実際の相談業務や情報管理の運用に合った内容へ調整する必要があります。