AI生成素材利用に関する確認書とは?
AI生成素材利用に関する確認書とは、アニメ制作会社が生成AIを利用して画像、映像、音声、文章、デザインなどの素材を制作・加工する場合に、生成AIを利用できる範囲やAI生成素材の取扱い、権利関係、第三者の権利への配慮、秘密情報の入力、納品条件などを当事者間で確認するための文書です。近年のアニメ制作では、生成AIを完成作品へ直接使用するケースだけでなく、企画段階のアイデア出し、キャラクターデザイン案、背景イメージ、絵コンテ、脚本案、音声、宣伝広告素材など、制作工程の一部を補助する目的で利用するケースも考えられます。そのため、単純に「生成AIを利用してよい」と合意するだけでは十分ではありません。具体的には、次のような事項を整理しておくことが重要です。
- どの生成AIサービスを利用するのか
- どの制作工程で生成AIを利用できるのか
- AI生成素材を最終成果物に使用できるのか
- 第三者の著作物やキャラクター等に類似していないか
- 未公開作品やキャラクター設定などを生成AIへ入力できるのか
- AI生成素材についてどのように権利関係を整理するのか
- 納品時に生成AIの利用を申告する必要があるのか
- 問題が判明した場合に誰が修正や差替えを行うのか
こうした事項をあらかじめ確認書として整理しておくことで、アニメ制作会社、発注者、制作会社、外注先などの間で生成AI利用に対する認識を統一しやすくなります。
アニメ制作会社でAI生成素材利用に関する確認書が必要となるケース
AI生成素材利用に関する確認書は、生成AIを使用するすべての案件で必ず作成しなければならない文書というわけではありません。しかし、アニメ制作は多数のスタッフや外部クリエイター、制作会社などが関係することが多いため、生成AIの利用条件を事前に明確にしておくことには大きな意味があります。特に、次のようなケースでは確認書の作成を検討するとよいでしょう。
- 背景や美術の制作補助として生成AIを利用する場合
- キャラクターや衣装、小物などのデザイン案を生成AIで作成する場合
- 絵コンテやイメージボードの作成に生成AIを利用する場合
- 映像の生成、補完、加工などに生成AIを利用する場合
- 音声、楽曲、効果音などの制作に生成AIを利用する場合
- 脚本、台詞、コピーなどの文章作成を生成AIで補助する場合
- ポスター、SNS画像、PVなどの宣伝広告素材に生成AIを利用する場合
- 外注先や再委託先が生成AIを使用する可能性がある場合
例えば、制作会社が背景案の作成に生成AIを使用していたとしても、発注者側が「納品物への生成AI利用は禁止」という条件を設けていれば、後から問題になる可能性があります。反対に、企画段階の参考画像としてのみ使用し、最終成果物にはAI生成素材を使用しないという運用も考えられます。重要なのは、生成AIを使用したかどうかだけではなく、「どこまで使用できるのか」を案件ごとに明確にすることです。
AI生成素材利用に関する確認書に盛り込むべき主な項目
アニメ制作会社向けのAI生成素材利用に関する確認書では、少なくとも次のような事項を整理しておくことが重要です。
- 確認書の目的
- 生成AI及びAI生成素材の定義
- 対象作品及び対象素材
- 使用する生成AIサービス
- 生成AIを利用できる制作工程
- AI生成素材の利用可能範囲
- 第三者の著作権等への配慮
- 生成AIへ入力する素材の権利処理
- 秘密情報及び個人情報の取扱い
- AI生成素材に関する権利関係
- 納品時の取扱い
- 生成過程に関する情報の保存
- AI利用に関するクレジット・表示
- 再委託先による生成AI利用
- 問題発生時の通知及び対応
- 利用停止・修正・差替え
- 損害への対応
- 他の制作契約等との関係
生成AIに関する確認書では、AI生成素材そのものだけでなく、「生成AIに何を入力するか」についても整理しておくことがポイントです。
条項ごとの解説と実務ポイント
1. 生成AI・AI生成素材の定義
最初に明確にしておきたいのが、何を生成AI及びAI生成素材として取り扱うのかという点です。生成AIというと画像生成サービスをイメージしやすいですが、実際の制作工程では文章、画像、映像、音声、音楽などさまざまな種類があります。
そのため確認書では、AI生成素材について、
- 画像
- イラスト
- 背景
- キャラクター案
- 絵コンテ
- 映像
- 音声
- 楽曲
- 効果音
- 台詞
- 脚本
- デザイン
などを広く対象としておくと、制作工程に応じて利用しやすくなります。また、完全にAIだけで生成された素材だけではなく、人が作成した素材を生成AIで加工、補完、変換又は修正した場合についても対象とすることで、確認範囲を明確にできます。
2. 対象作品・生成AIサービスの特定
AI生成素材利用に関する確認書では、どの案件に対する確認書なのかを明確にする必要があります。
例えば、
- 対象作品名
- 制作案件名
- 使用予定の生成AI・サービス
- AI生成素材の種類
- 使用目的
- 使用予定箇所
などを記載します。生成AIの利用条件はサービスによって異なる可能性があるため、単に「生成AIを使用する」と記載するだけでなく、使用予定サービスを確認できるようにしておくと実務上管理しやすくなります。
3. 生成AIの利用条件
生成AIを業務で利用するときは、使用するサービスの利用条件を確認することが重要です。確認書では、生成AIを使用する当事者が利用規約やライセンス条件などを確認し、対象作品における予定された利用を妨げる条件がないことを合理的な範囲で確認する旨を定めておく方法があります。特にアニメ作品は、テレビ放送、映画上映、動画配信、海外配信、商品化、広告利用などへ展開される可能性があります。そのため、制作段階だけでなく、その後予定されている利用方法との関係も踏まえて生成AIサービスの条件を確認することが重要です。
4. AI生成素材を利用できる制作工程
アニメ制作では、生成AIを使用できる工程と使用できない工程を区別する運用も考えられます。
例えば、
- 企画・アイデア検討は利用可
- 絵コンテは利用可
- 背景案は利用可
- キャラクターデザイン案は事前承認制
- 完成映像への直接使用は不可
というような設定です。確認書にチェック欄を設けておけば、案件ごとに利用可能な工程を変更できます。特に「制作補助として使えること」と「AI生成素材を完成作品に直接使用できること」は別の問題として整理すると、認識違いを防ぎやすくなります。
5. 第三者の著作権等への配慮
AI生成素材を使用するときに重要となるのが、第三者の権利との関係です。AI生成素材の中に既存作品のキャラクター、ロゴ、商品、人物その他第三者の権利の対象となり得る表現との類似性が疑われるものが含まれている場合、そのまま使用するのではなく、内容を確認したうえで修正や差替えを検討する必要があります。また、特定の漫画家、イラストレーター、アニメーターなどの表現を直接模倣することを目的とした生成指示についても、慎重な判断が求められます。確認書では、AI生成素材を使用する当事者に合理的な確認を求め、問題が疑われる場合の修正・差替えまで定めておくと実務上利用しやすくなります。
6. 生成AIへ入力する素材の権利処理
生成AIでは、出力された素材だけではなく、入力する情報にも注意が必要です。例えば、制作会社が発注者から提供されたキャラクターデザインを生成AIへアップロードし、それを基に別ポーズを生成するケースが考えられます。この場合、そのキャラクター素材について利用許諾を受けていたとしても、その許諾範囲に生成AIへの入力やAIを利用した加工まで含まれているかは、個別の契約内容によって確認する必要があります。
そのため、
- 自社が権利を保有する素材なのか
- 第三者から利用許諾を受けた素材なのか
- 生成AIへの入力まで許可されているのか
- AIを利用した加工が許可されているのか
といった点を確認することが重要です。
7. 未公開作品・秘密情報の入力
アニメ制作会社では、生成AIへの情報入力による秘密情報の取扱いにも注意する必要があります。
制作途中には、
- 未公開脚本
- キャラクター設定
- 絵コンテ
- 原画
- 未公開映像
- 出演者情報
- 公開前のストーリー
- 制作スケジュール
など、外部へ公開されることを予定していない情報が多数存在します。そのため、相手方から秘密として提供された情報や未公開作品の情報については、事前承諾なく生成AIへ入力しないというルールを設けることが重要です。既に秘密保持契約書を締結している場合には、AI生成素材利用確認書と秘密保持契約書の内容を整合させることも必要です。
8. 個人情報の取扱い
生成AIへ個人情報を入力する場合も注意が必要です。例えば、スタッフ、出演者、声優、取引先担当者などに関する情報を生成AIへ入力する場合には、個人情報の保護に関する法令や社内規程などを確認する必要があります。AI生成素材利用に関する確認書では、個人情報その他個人を識別し得る情報を入力する場合、適用されるルールに従って必要な措置を講じる旨を定めておく方法があります。
9. AI生成素材の権利関係
AI生成素材に関する確認書では、著作権その他の権利関係についても整理しておく必要があります。特に注意したいのは、「生成AIを使用した素材だから必ず著作権が発生する」又は反対に「AIを使った素材だから一切権利が発生しない」と一律に扱わないことです。確認書では、AI生成素材に関する権利の有無や帰属について、適用される法令、生成AIサービスの利用条件、生成過程における人の関与などを踏まえて判断するという形にしておくことが考えられます。また、人がAI生成素材に加筆、修正、編集、構成などを行った場合、その成果物の権利帰属については制作契約や業務委託契約などとの整合性も確認する必要があります。
10. 納品時のAI利用申告
発注者と制作会社のトラブルを防止するためには、納品条件も重要です。例えば、発注者が生成AIの利用を禁止しているにもかかわらず、制作会社や外注先が生成AIを使用していた場合、成果物の受領後に問題となる可能性があります。
そのため、
- 生成AIの利用自体を禁止する
- 制作補助としてのみ認める
- 事前承認があれば認める
- 最終成果物への使用も認める
- 納品時に使用箇所を申告する
など、案件ごとの条件を設定しておくことが重要です。
11. 生成過程に関する情報の保存
AI生成素材について後から確認が必要になる可能性を考え、一定の情報を保存しておく運用も考えられます。
例えば、
- 使用した生成AIサービス
- 生成日時
- 生成又は加工した内容の概要
- 使用したAI生成素材
などです。すべての生成履歴を永久に保存する必要があるという意味ではありませんが、案件の性質や重要性に応じて、後から利用状況を説明できる状態にしておくことはリスク管理につながります。
12. AI利用に関する表示・クレジット
AI生成素材を利用した場合に、作品上でその事実を表示するかどうかについても確認しておくとよいでしょう。
表示の要否については、
- 適用される法令
- 利用する生成AIサービスの条件
- 配信プラットフォーム等の規約
- 発注者との契約
- 作品ごとの制作方針
などを踏まえて判断します。表示が必要な場合には、「どこに」「どのような内容で」表示するのかまで協議しておくと、納品直前の混乱を防ぎやすくなります。
13. 外注先・再委託先による生成AI利用
アニメ制作では、多数の外部スタッフや制作会社へ業務を委託することがあります。自社では生成AIを使用していなくても、再委託先が独自に生成AIを使用する可能性があります。
そのため、AI生成素材利用に関するルールを社内だけに限定せず、
- 外注先
- 再委託先
- フリーランスのクリエイター
- 協力制作会社
などへどこまで適用するのかを決めておくことが重要です。必要に応じて、再委託先についても同等のAI利用ルールを遵守させる仕組みを設けるとよいでしょう。
14. 問題が発生した場合の通知
AI生成素材について問題が判明した場合には、迅速な情報共有が重要になります。
例えば、
- 既存作品との類似性が判明した
- 第三者から権利侵害を指摘された
- 生成AIの利用条件に反している可能性が判明した
- 秘密情報を誤って生成AIへ入力した
- 個人情報を不適切に入力した可能性がある
といったケースです。このような場合に相手方への通知を義務付けておけば、作品公開前であれば差替えを行うなど、早期対応につなげることができます。
15. AI生成素材の修正・差替え
第三者の権利侵害などが疑われるAI生成素材については、利用停止、修正又は差替えが必要になることがあります。確認書では、問題が発生した場合に修正・差替えができることだけでなく、その費用をどちらが負担するのかについても整理しておくことが重要です。例えば、制作会社が契約上禁止されている生成AIを独自に使用した結果として差替えが必要になった場合と、契約締結後に外部サービス側の条件変更が生じた場合では、事情が異なります。そのため、原因や責任の所在を踏まえて費用負担を協議する条項を設ける方法があります。
AI生成素材利用に関する確認書と制作契約書の違い
AI生成素材利用に関する確認書は、アニメ制作そのものの契約条件をすべて定めるものではありません。
一般的なアニメ制作契約書では、
- 制作する作品の内容
- 制作費
- 納期
- 検収
- 著作権等の権利帰属
- 秘密保持
- 損害賠償
- 契約解除
など、制作業務全体について定めます。一方、AI生成素材利用に関する確認書は、その中でも生成AI及びAI生成素材の取扱いに焦点を当てた文書です。そのため、制作契約書を締結したうえで、生成AIを利用する案件について本確認書を追加するという使い方が考えられます。
AI生成素材利用に関する確認書を作成する際の注意点
生成AIの利用を一括して許可しない
「生成AIの利用を認める」という一文だけでは、企画段階だけなのか、完成作品にも使用できるのかが分かりません。利用できる制作工程や最終成果物への使用可否を具体的に設定することが重要です。
使用する生成AIサービスを確認する
生成AIサービスによって利用条件等が異なる可能性があります。そのため、実際に使用するサービスを確認し、予定している利用方法に問題がないかを個別に確認することが重要です。
秘密保持契約との整合性を確認する
秘密保持義務を負っている情報を生成AIへ入力する場合、既存の秘密保持契約との関係が問題になる可能性があります。特に未公開の脚本、設定資料、キャラクターデザイン、映像等を取り扱う場合には注意が必要です。
外注先にもルールを共有する
制作会社だけがAI利用ルールを理解していても、外注先が自由に生成AIを利用してしまえば管理が不十分になる可能性があります。案件に参加する関係者の範囲を確認し、必要に応じて再委託先等にも同等の条件を適用することが重要です。
制作契約書や権利帰属に関する合意とセットで確認する
AI生成素材利用確認書だけで、アニメ作品全体の著作権その他の権利帰属が決まるわけではありません。制作契約書、業務委託契約書、著作権譲渡契約書、権利帰属に関する合意書などが存在する場合には、それらの契約との整合性を確認する必要があります。
案件ごとに確認内容を変更する
生成AIの利用方法は、作品によって大きく異なります。企画案だけに生成AIを使う案件と、完成映像にもAI生成素材を使用する案件では、必要となる確認事項も変わります。そのため、確認書にはチェック欄や特記事項欄を設け、案件ごとに条件を設定できるようにすると実務で利用しやすくなります。
AI生成素材利用確認欄に記載しておきたい事項
確認書本文とは別に、案件ごとのAI利用条件を一覧で確認できる欄を設けておく方法も有効です。例えば、次のような項目を設定できます。
- 対象作品
- 生成AIを利用するかどうか
- 利用する生成AI・サービス
- 利用可能な制作工程
- 最終成果物への使用可否
- 事前承認の要否
- AI利用表示の要否
- 特記事項
特に「利用可・利用不可・事前承認を条件として利用可」のように選択式にすると、案件ごとの条件を明確にできます。
AI生成素材利用に関する確認書を電子契約する場合
AI生成素材利用に関する確認書は、紙で締結する方法だけでなく、電子契約によって取り交わす方法も考えられます。アニメ制作では、制作会社、発注者、外部クリエイターなど複数の関係者が遠隔地で業務を行うこともあるため、電子契約を利用すれば確認書の締結・保管を効率化できます。また、生成AIの利用条件は案件ごとに異なるため、対象作品名、使用する生成AI、利用可能工程、最終成果物への使用可否などを明記した確認書を案件単位で管理しておけば、後から契約内容を確認しやすくなります。
まとめ
AI生成素材利用に関する確認書は、アニメ制作に生成AIを導入するときの利用ルールを明確にするための文書です。生成AIは企画、キャラクターデザイン案、背景、美術、絵コンテ、映像、音声、脚本、広告素材など幅広い制作工程で利用される可能性があるため、「生成AIを利用してよいか」という二択だけでは十分ではありません。
実務では、
- どの生成AIを利用するのか
- どの制作工程まで利用できるのか
- 完成作品にAI生成素材を使用できるのか
- 第三者の権利へどのように配慮するのか
- 未公開素材や秘密情報を入力してよいのか
- 納品時にAI利用を申告するのか
- 外注先にも同じルールを適用するのか
- 問題が発生した場合にどのように対応するのか
といった点まで具体的に整理しておくことが重要です。また、AI生成素材利用に関する確認書だけで制作案件全体の契約関係が完結するものではありません。制作契約書、業務委託契約書、秘密保持契約書、著作権その他の権利帰属に関する契約等と組み合わせ、内容に矛盾が生じないよう確認することが重要です。