企業資産評価依頼書とは?
企業資産評価依頼書とは、企業が保有する土地・建物などの資産について、その価値を把握するために不動産鑑定士へ評価業務を依頼する際に使用する書類です。企業が保有する不動産は、単に事業活動の拠点として利用されるだけではありません。M&A、企業再編、事業譲渡、資産売却、担保設定、財務・会計上の検討など、さまざまな場面でその価値を確認する必要があります。特に企業資産の評価では、何のために評価するのか、いつの時点の価格を求めるのか、どのような条件を前提とするのかによって、必要となる調査や成果物が異なる場合があります。そのため、評価業務を開始する前に依頼内容を整理し、不動産鑑定士との間で認識を共有しておくことが重要です。企業資産評価依頼書では、主に以下の事項を明確にします。
- 評価対象となる土地・建物等
- 評価を行う目的
- 価格時点
- 評価条件
- 不動産鑑定士へ依頼する業務内容
- 依頼者から提供する資料
- 現地調査の取扱い
- 成果物の種類や提出方法
- 成果物の利用目的・利用範囲
- 報酬や実費の負担
- 秘密情報や利益相反の取扱い
これらを依頼時に整理しておくことで、評価対象や目的についての認識のずれを防ぎ、企業資産評価を円滑に進めやすくなります。
企業資産評価依頼書が必要となるケース
企業資産評価依頼書は、企業が保有する不動産について客観的な価値を把握する必要がある場面で活用できます。
1.M&Aや企業再編を行う場合
M&Aでは、対象会社が保有する土地や建物が企業価値に大きな影響を与えることがあります。帳簿上の金額と現在の不動産価値が異なっている場合もあるため、企業買収や事業譲渡などの検討に際して、不動産の価値を確認する必要が生じることがあります。企業資産評価依頼書を作成して、M&Aや企業再編を目的とすることを明確にしておけば、不動産鑑定士にも評価結果の利用目的を伝えやすくなります。
2.財務・会計上の資産価値を確認する場合
企業が保有する土地や建物について、財務・会計上の検討のために現在の価値を把握したい場合があります。このような評価では、評価目的だけでなく、価格時点や評価対象資産を明確にすることが重要です。また、監査法人、公認会計士、税理士などへ成果物を提示する予定がある場合には、誰がどのような目的で成果物を利用するのかについても整理しておくことが望まれます。
3.不動産を売却・取得する場合
企業が土地や建物を売却する際、希望価格だけを基準として売却条件を決めると、市場実態との間に差が生じる可能性があります。反対に、不動産を取得する場合にも、提示された価格が適切なのかを検討する材料として資産評価が利用されることがあります。不動産鑑定士による評価を依頼することで、価格判断のための客観的な資料を確保しやすくなります。
4.担保設定や金融機関への説明を行う場合
金融機関との融資交渉などにおいて、企業が保有する不動産の価値を確認する必要が生じることがあります。この場合には、評価対象不動産だけでなく、評価結果を金融機関へ提出する予定があることについても依頼時に明確にしておくことが重要です。
5.事業譲渡や会社分割を行う場合
事業譲渡や会社分割では、事業に使用されている土地や建物について、その価値を個別に確認する必要が生じることがあります。複数の不動産が対象となる場合には、対象資産を明確に特定し、どの資産について評価を求めるのかを依頼書に記載しておくと、評価対象の認識違いを防止できます。
企業資産評価依頼書に記載すべき主な項目
企業資産評価依頼書を作成するときは、単に不動産の評価を依頼するという内容だけでは十分とはいえません。評価業務を適切に進めるため、少なくとも以下の事項を整理しておくことが重要です。
- 依頼者の会社名、所在地、代表者、担当者等
- 評価対象資産の所在地や種類
- 評価目的
- 価格時点
- 評価条件
- 依頼する具体的な業務
- 提供資料
- 現地調査の実施
- 成果物の種類、提出形式、提出期限
- 成果物の利用目的と利用予定者
- 報酬及び実費
- 秘密情報の取扱い
- 利益相反等の確認
- 依頼内容の変更・取消し
それぞれの内容を具体的にしておくことで、依頼者と不動産鑑定士の双方が評価業務の範囲を確認しやすくなります。
企業資産評価依頼書の項目ごとの解説
1.評価対象資産
最初に明確にする必要があるのが、何を評価してもらうのかという点です。企業が複数の土地や建物を保有している場合、単に本社不動産などと記載するだけでは、評価対象を正確に特定できない可能性があります。そのため、土地については所在地や地番、面積など、建物については所在地、家屋番号、延床面積、用途などを可能な範囲で記載します。また、所有権だけでなく借地権や賃借権などが評価に関係する場合には、その内容についても整理しておくことが重要です。
2.評価目的
企業資産評価では、評価結果を何に使用するのかを明確にすることが重要です。
例えば、
- M&A
- 企業再編
- 財務・会計上の検討
- 担保設定
- 金融機関への説明
- 資産売却
- 資産取得
などが考えられます。同じ不動産について評価する場合でも、評価結果の利用目的によって依頼内容や必要な成果物が異なる可能性があります。そのため、依頼書では評価目的を具体的に記載することが重要です。
3.価格時点
価格時点とは、いつの時点における不動産の価値を評価するのかを示すものです。不動産市場は変動するため、評価日が異なれば評価結果にも影響する可能性があります。特に決算、M&A、事業譲渡など特定の日を基準として資産価値を確認する場合には、価格時点を明確にしておく必要があります。依頼書には年月日まで記載できるようにしておくと、評価の基準となる時点を明確にできます。
4.評価条件
評価対象不動産に特殊な事情がある場合には、その内容を評価条件として整理します。例えば、現在の利用状況、権利関係、賃貸状況など、評価に影響する事項が存在する場合があります。また、依頼者が提示した資料や一定の前提条件に基づいて評価する場合には、その前提を明確にしておくことも重要です。評価条件について認識が異なっていると、依頼者が想定していた評価と実際の成果物との間にずれが生じる可能性があります。
5.依頼業務の範囲
企業資産評価では、不動産鑑定士がどこまでの業務を行うのかについても確認しておく必要があります。具体的には、資料確認、現地調査、権利関係の確認、市場動向の調査、取引事例や賃貸事例の分析、評価額の算定、成果物の作成などが考えられます。依頼業務の範囲を記載しておけば、依頼後にどこまで対応してもらえるのかについてトラブルになることを防ぎやすくなります。
6.提供資料
不動産評価では、多くの資料が必要になる場合があります。
代表的なものとして、
- 登記事項証明書
- 公図
- 地積測量図
- 建物図面・各階平面図
- 固定資産税評価証明書
- 賃貸借契約書
- 収益・費用に関する資料
- 修繕や設備更新に関する資料
などがあります。企業側がどの資料を提供するのかを整理しておくことで、資料不足による評価業務の遅延を防止しやすくなります。また、提供資料については、可能な限り正確かつ最新のものを準備することが重要です。
7.現地調査
評価対象となる土地・建物について、不動産鑑定士が現地調査を行うことがあります。企業の事業所や工場、倉庫などでは、通常の不動産とは異なり、第三者の立入りに事前手続が必要になる場合もあります。そのため、建物内部への立入り、写真撮影、管理会社や担当者への確認などが必要になる場合には、実施方法をあらかじめ調整しておくとスムーズです。
8.成果物
企業資産評価を依頼するときは、どのような成果物を求めるのかについても明確にします。作成する書類としては、不動産鑑定評価書、調査報告書、価格調査書、意見書などが考えられます。
さらに、
- 紙で納品するのか
- 電子データで納品するのか
- 何部必要なのか
- いつまでに提出するのか
についても依頼時に確認しておくと、納品段階での認識違いを防止できます。
9.成果物の利用目的・利用範囲
企業資産評価では、成果物を社内だけで使用するとは限りません。金融機関、監査法人、公認会計士、税理士、弁護士、株主、投資家、取引先などに提出することも考えられます。そのため、成果物を第三者へ提供する予定がある場合には、利用予定者や利用目的をあらかじめ不動産鑑定士へ伝えておくことが重要です。特に外部提出を予定している場合は、必要となる成果物の内容について事前に確認しておくことが望まれます。
10.報酬及び費用
企業資産評価依頼書では、評価業務の報酬についても明確にしておきます。
報酬額だけでなく、
- 消費税等を含むか
- 交通費を含むか
- 資料取得費を含むか
- その他の実費を誰が負担するか
- 支払期限
- 支払方法
などを確認しておくことが重要です。特に遠隔地の不動産や複数物件を評価する場合には、交通費や資料取得費などが別途発生する可能性があるため、事前に取扱いを決めておくと安心です。
11.秘密情報の取扱い
企業資産評価では、不動産情報だけでなく、企業の財務情報、賃貸条件、収益情報、事業計画など、外部に公開していない情報を不動産鑑定士へ提供することがあります。そのため、評価業務を通じて取得した非公知情報について、評価業務以外の目的で利用しないことや、正当な理由なく第三者へ開示しないことを明確にしておくことが重要です。プロジェクトで参照している秘密保持契約書でも、秘密情報について目的外利用や第三者への開示を制限する構成が採用されています。
12.利益相反等の確認
企業資産の評価では、評価の客観性や独立性が重要になります。不動産鑑定士やその関係者が評価対象不動産について利害関係を有している場合など、評価の公正性に影響を与える事情が存在するときは、その内容を確認する必要があります。依頼書に利益相反等の確認事項を設けておけば、評価業務を開始する前に問題となる事情を確認しやすくなります。
企業資産評価依頼書を作成する際の注意点
評価目的を曖昧にしない
単に資産価値を知りたいと記載するのではなく、M&A、財務・会計、売却、担保設定など、できるだけ具体的な目的を記載しましょう。
評価目的が明確であれば、不動産鑑定士も必要となる業務や成果物を検討しやすくなります。
評価対象を正確に特定する
複数の土地・建物を保有する企業では、評価対象の取り違えを防ぐことが重要です。所在地だけでなく、地番、家屋番号、面積などを利用して対象資産を特定します。複数物件を一括して依頼する場合には、別紙として評価対象資産一覧を作成する方法もあります。
必要資料を早めに準備する
企業資産評価では、登記関係資料や図面、賃貸借契約書、収益資料などが必要になることがあります。資料が不足していると追加確認が必要となり、成果物の完成まで時間がかかる可能性があります。評価を依頼することが決まった段階で、不動産鑑定士に必要資料を確認し、社内で準備を進めておくことが重要です。
成果物の提出先を確認する
成果物を社内検討だけに使用する場合と、金融機関や監査法人などへ提出する場合とでは、求められる内容が異なる可能性があります。外部提出を予定している場合には、誰に、何のために提出するのかを依頼時に明確にしておきましょう。
評価結果を将来の取引価格と混同しない
評価結果は、一定の価格時点、評価条件、市場環境、提供資料等を前提として算定されるものです。そのため、実際に不動産を売却した場合に必ず評価額と同額で売却できることや、金融機関から評価額に応じた融資を受けられることを保証するものではありません。評価結果がどのような前提に基づくものなのかを理解した上で利用する必要があります。
依頼内容が変わった場合は速やかに共有する
評価業務の途中で、対象不動産、価格時点、評価目的、成果物の提出先などが変更されることがあります。このような変更は、調査内容や評価方法、納期、報酬などに影響する可能性があります。依頼内容に変更が生じた場合には、速やかに不動産鑑定士へ伝え、必要に応じて追加業務や費用について協議することが重要です。
企業資産評価依頼書と不動産鑑定評価契約書の違い
企業資産評価依頼書は、企業側が評価対象、評価目的、価格時点、希望する成果物などを整理して、不動産鑑定士へ評価を依頼するための書類です。一方、不動産鑑定評価契約書は、依頼者と不動産鑑定士との間で、評価業務の内容や報酬、双方の権利義務などについて契約として定めることを主な目的とします。したがって、企業資産評価依頼書を作成しただけで、すべての契約条件を網羅できるとは限りません。案件の内容や評価業務の規模に応じて、不動産鑑定評価契約書、秘密保持契約書、資料提供に関する書類などと組み合わせて利用することが考えられます。
企業資産評価依頼書を活用するメリット
企業資産評価依頼書を作成する最大のメリットは、評価を開始する前に依頼条件を整理できることです。企業資産の評価では、対象不動産、目的、価格時点、必要資料、成果物、提出先など、確認すべき事項が多岐にわたります。これらを口頭やメールだけで調整すると、後から認識の違いが生じる可能性があります。
依頼書として整理しておけば、
- 評価対象資産を明確にできる
- 評価目的を共有できる
- 価格時点や評価条件を確認できる
- 必要資料を整理できる
- 成果物の種類や納期を確認できる
- 第三者への提出予定を共有できる
- 報酬や実費について確認できる
- 秘密情報や利益相反について整理できる
といったメリットがあります。特にM&Aや企業再編など、複数の専門家や関係者が関与する案件では、依頼条件を書面として残しておくことが実務上重要です。
まとめ
企業資産評価依頼書は、企業が保有する土地・建物などについて、不動産鑑定士へ評価を依頼する際の条件を整理するための書類です。M&A、企業再編、財務・会計上の検討、担保設定、金融機関への説明、資産売却・取得など、企業資産の価値を客観的に確認する必要があるさまざまな場面で活用できます。作成する際には、評価対象資産だけでなく、評価目的、価格時点、評価条件、提供資料、現地調査、成果物、利用目的、報酬、秘密情報の取扱いなどを具体的に整理することが重要です。また、成果物を金融機関、監査法人、株主、投資家などの第三者へ提出する場合には、その利用目的や提出先についてもあらかじめ不動産鑑定士と共有しておくことが望まれます。企業資産の評価は、その後のM&A、資産売却、融資、財務・会計上の判断などに関係する重要な手続となることがあります。企業資産評価依頼書を活用して依頼条件を明確にし、不動産鑑定士との認識を共有した上で評価業務を進めることが大切です。