役員退職金相談契約書(FP)とは?
役員退職金相談契約書(FP)とは、ファイナンシャルプランナー(FP)が法人や経営者などから、役員退職金の金額、支給時期、資金準備、退任後の生活設計などについて相談を受ける際に、相談業務の内容や報酬、責任範囲などを定める契約書です。役員退職金は、一般的な個人向けの家計相談とは異なり、法人の財務状況と役員個人のライフプランの双方に関係します。また、税務、会社法、保険、資産運用など複数の分野が関係する可能性があるため、FPがどこまで対応するのかをあらかじめ明確にしておくことが重要です。役員退職金相談契約書では、主に次のような事項を整理します。
- FPが対応する相談業務の内容
- 役員退職金の試算方法と位置付け
- 法人からFPへ提供する情報や資料
- 税務・法律等に関する専門業務との区分
- 相談報酬や実費の負担
- 生命保険や金融商品等に関する情報提供
- 試算結果や相談結果についての非保証
- 秘密保持や個人情報の取扱い
- 損害賠償や契約解除
特に重要なのが、FPによる役員退職金の試算と、税理士等による個別具体的な税務判断を区別することです。FPが一定の条件に基づいて退職金額のシミュレーションを行う場合でも、その金額が実際に税務上認められることまで保証できるわけではありません。そのため、役員退職金相談契約書を作成する場合には、単に相談内容を記載するだけでなく、FPの業務範囲と専門家への確認が必要となる領域を明確にすることが重要です。プロジェクトでは、契約書ひな形について中小企業庁参照資料と同等レベルの体系・濃さを持たせる方針とされています。
役員退職金相談契約書が必要となるケース
役員退職金についてFPへ相談するすべての場面で契約書が法律上必須になるわけではありません。しかし、相談内容が法人財務、退職後の生活設計、保険、資産運用など広範囲に及ぶ場合には、口頭だけで業務内容を決めると、依頼者とFPとの間で認識の違いが生じる可能性があります。特に次のようなケースでは、契約書によって相談条件を明確にしておくことが有効です。
- 法人が役員退職金の金額についてFPへ相談する場合
- 経営者が数年後の退任を見据えて資金準備を相談する場合
- 役員退職金と退職後の生活資金を一体的に検討する場合
- 法人の資金繰りを考慮しながら退職金の支給時期を検討する場合
- 生命保険等を利用した退職金原資の準備について情報提供を受ける場合
- 役員退職金と公的年金、金融資産等を組み合わせたライフプランを作成する場合
例えば、代表取締役が5年後の退任を予定しているケースを考えてみましょう。この場合、単純に役員退職金の金額だけを考えればよいとは限りません。法人側では支給原資の確保や資金計画を検討する必要があり、役員個人側では退職後の生活費、公的年金、保有資産などを踏まえた資金計画が必要になることがあります。FPはこれらを横断的に整理する役割を担うことができます。一方、具体的な税務判断などについては別の専門家への確認が必要になることがあるため、契約時点で役割分担を明確にしておくことが大切です。
役員退職金相談契約書に盛り込むべき主な条項
役員退職金相談契約書には、一般的に次のような事項を盛り込みます。
- 契約の目的
- 相談業務の内容
- 相談業務の範囲
- 対象外となる専門業務
- 相談者による情報提供
- 役員退職金の試算
- 税制等に関する情報提供
- 相談報酬及び費用
- 相談日時の変更及びキャンセル
- 第三者の商品・サービスに関する取扱い
- 利益相反等
- 秘密保持
- 個人情報の取扱い
- 相談資料及び成果物の取扱い
- 非保証
- 相談者の意思決定
- 損害賠償
- 禁止事項
- 契約期間
- 中途解約及び解除
- 反社会的勢力の排除
- 準拠法及び合意管轄
特に役員退職金相談では、業務範囲、試算、専門業務との区分、非保証の4点が重要になります。
条項ごとの解説と実務ポイント
1. 相談業務の内容
最初に明確にしたいのが、FPが具体的に何を行うのかという点です。
例えば、役員退職金相談では、
- 役員退職金に関する希望条件の整理
- 役員の在任期間や役位、役員報酬等の情報整理
- 退職金額の試算
- 支給時期や支給方法に関する一般的な情報提供
- 法人側の資金計画に関する助言
- 退任後の生活資金に関する助言
- 公的年金等に関する一般的な情報提供
などが考えられます。業務内容が曖昧なままだと、相談者は個別具体的な税額計算まで依頼したつもりだったのに、FP側は一般的なシミュレーションだけを行うつもりだった、といった認識の違いが生じる可能性があります。契約書では、何を行うのかを可能な限り具体的に記載しておくことが重要です。
2. FPの相談業務の範囲
FPの役割は、相談者の意思決定を支援するための情報整理、シミュレーション、一般的な制度説明などです。そのため、契約書ではFPによる助言や試算が、役員退職金の支給額等をFP自身が決定するものではないことを明確にしておくとよいでしょう。役員退職金を実際にいくら支給するのか、いつ支給するのかなどについては、法人側が必要な手続を経て決定することになります。FPの役割を意思決定の補助として位置付けることで、相談者とFP双方の役割を整理できます。
3. 税理士・弁護士等の専門業務との区分
役員退職金相談では非常に重要な部分です。相談内容によっては、税務、会社法その他の専門領域が関係します。
そのため、FP相談契約書では、
- 個別具体的な税務判断
- 税務申告書の作成
- 税務代理
- 具体的な法律判断
- 登記手続
- その他資格や登録を必要とする専門業務
などがFP相談業務に当然含まれるものではないことを明確にしておくことが重要です。必要な場合には、税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士など適切な専門家への相談を案内する形にしておくと、役割分担を明確にできます。
4. 相談者による情報提供
役員退職金の試算結果は、相談者から提供される情報によって大きく変わります。
そのため、契約書では、相談者が必要な情報を正確に提供する義務を定めておくことが重要です。
例えば、
- 対象役員の年齢
- 役職
- 在任期間
- 現在及び過去の役員報酬
- 役員退職金規程
- 過去の退職金支給実績
- 法人の財務状況
- 生命保険契約等の状況
- 退任予定時期
などが検討資料となります。提供された情報が誤っていれば、当然シミュレーション結果にも影響します。したがって、情報に変更があった場合の通知義務や、情報不足・誤りによって試算結果に差異が生じた場合の取扱いも定めておくとよいでしょう。
5. 役員退職金の試算
役員退職金相談契約書の中心となる条項です。FPが一定の計算方法や前提条件に基づいて退職金額を試算する場合、その結果の法的位置付けを明確にしておく必要があります。特に重要なのは、試算額を確定額として扱わないことです。役員退職金について一定の算定方法を参考にした場合であっても、具体的事情によって評価が異なる可能性があります。したがって、「試算結果は一定の前提条件に基づく参考値である」という位置付けを明確にしておくことがポイントです。実際の支給額を決定する段階では、法人の状況や対象役員の事情等を踏まえ、必要に応じて税理士等へ確認することが重要になります。
6. 税制等に関する情報提供
FPが役員退職金について相談を受ければ、税制について質問される可能性があります。一般的な制度や公開情報について説明することと、個別具体的な税務判断を行うことは区別して考える必要があります。契約書では、FPによる税制説明について、相談時点で公表されている情報に基づく一般的な情報提供であることを明確にしておくことが考えられます。また、税制や行政上の取扱いは変更される可能性があります。相談から実際の退任・退職金支給まで数年間空くケースでは特に、実際の支給時点で最新の制度を確認することが重要です。
7. 相談報酬及び費用
FP相談では、料金をめぐるトラブルを避けるため、報酬条件を明確にしておく必要があります。
契約書には、
- 相談報酬
- 消費税の取扱い
- 支払期限
- 支払方法
- 振込手数料の負担
- 交通費や資料取得費等の実費
などを記載しておくとよいでしょう。複数回の相談を予定している場合には、1回ごとの料金なのか、相談期間全体の料金なのかも明確にしておくことが大切です。
8. 金融商品や生命保険等に関する情報提供
役員退職金の資金準備について相談する過程で、生命保険や金融商品などが話題になる場合があります。この場合も、FPが行える業務の範囲を明確にすることが重要です。一般的な商品情報の提供と、資格・登録を前提とする募集、媒介、勧誘等は同じものではありません。そのため、契約書では、FPが保有する資格・登録等に応じた範囲で業務を行うことを前提としておく必要があります。また、相談者が第三者の商品・サービスを契約する場合には、商品提供者等から条件、費用、リスクについて説明を受け、最終的には相談者自身が判断することも明確にしておくとよいでしょう。
9. 利益相反
FPが保険会社や金融機関等から紹介料その他の経済的利益を受ける仕組みになっている場合には、利益相反にも注意が必要です。相談者から見ると、「自分に適した提案なのか」「FP側の報酬を目的とした提案なのか」を判断できない可能性があります。そのため、第三者から報酬等を受ける場合について、その事実を必要に応じて説明する旨を契約書に盛り込むことが考えられます。
10. 秘密保持及び個人情報
役員退職金相談では、非常に重要な情報をFPへ提供することになります。例えば、役員報酬、会社の財務状況、保険契約、保有資産、退任予定などです。これらは外部に漏えいすれば、法人や役員本人に影響を与える可能性があります。
したがって、契約書には秘密保持条項を設け、
- 秘密情報を第三者へ漏えいしないこと
- 相談目的以外で使用しないこと
- 個人情報を適切に管理すること
などを定めることが重要です。プロジェクトで参照する中小企業庁レベルの契約書でも、秘密情報について対象情報、第三者への開示、利用目的等を具体的に定める構成となっています。
11. 相談資料・成果物の取扱い
FPが作成した退職金試算表、ライフプラン表、説明資料などについても、利用範囲を整理しておくとよいでしょう。
相談者が自社内部で検討するために利用することは通常想定されますが、FPが作成した資料をそのまま第三者へ販売したり、不特定多数へ公開したりすることまで当然に認められるわけではありません。
そこで、成果物の利用目的や知的財産権の帰属を契約書で整理しておくことが有効です。
12. 非保証
役員退職金相談では、非保証条項も重要です。FPが行うシミュレーションには、一定の前提条件があります。例えば、将来の法人財務、金利、運用実績、税制などが変化すれば、相談時点のシミュレーションと実際の結果が異なる可能性があります。
そのため、
- 試算額と実際の支給額が一致すること
- 一定の税務上の取扱いが認められること
- 税務上の指摘を受けないこと
- 将来の資産額がシミュレーションどおりになること
などを保証するものではないことを明確にする必要があります。ただし、免責・責任制限については、適用される法令との関係を考慮して設計する必要があります。
13. 損害賠償
契約違反によって損害が発生した場合に備え、損害賠償についても定めます。例えば、FPが相談者から預かった秘密情報を不適切に第三者へ漏えいした場合などには、損害賠償の問題が生じる可能性があります。一方で、FPによる試算結果を参考として相談者自身が意思決定を行った結果、想定した結果にならなかったというだけで、当然にFPがすべての損失を負担する仕組みにすることも適切とは限りません。そのため、責任の発生要件や範囲を契約書で整理することが重要です。
14. 契約期間・中途解約
役員退職金相談は、単発で終了する場合もあれば、数か月から数年にわたって継続する場合もあります。特に退任予定日の数年前から資金準備を始める場合には、長期間の相談契約になる可能性があります。
契約書には契約期間を記載するとともに、
- 中途解約できるか
- 中途解約時の報酬をどう精算するか
- どのような場合に即時解除できるか
を決めておくとトラブル防止につながります。
役員退職金相談契約書を作成する際の注意点
FP業務と税務相談を混同しない
役員退職金相談で特に注意したいのが、FP相談と専門資格を要する業務との境界です。契約書上でも、FPが行う一般的な制度説明や資金計画上のシミュレーションと、税理士等が行う個別具体的な専門業務を明確に区分することが重要です。
試算額を確定額として記載しない
役員退職金のシミュレーションを行った場合、相談者がその数字を確定的な金額として受け取ってしまう可能性があります。試算資料には、計算の前提条件、基準日、利用した情報などを記載し、参考値であることを明確にしておくとよいでしょう。
相談時点と実際の支給時点の違いに注意する
役員退職金相談では、相談から実際の退任まで数年空くことがあります。
その間に、
- 役員報酬が変更される
- 退任予定日が変更される
- 法人の業績が変化する
- 税制や制度が変更される
- 保険や金融商品の条件が変化する
といったことが考えられます。したがって、過去に作成したシミュレーションをそのまま利用するのではなく、実際の支給を検討する時点で最新情報に基づき再確認することが重要です。
相談者が法人なのか役員個人なのかを明確にする
役員退職金相談では、契約当事者にも注意が必要です。相談を申し込むのが法人である場合と、役員個人である場合では、相談目的や提供される情報、費用負担者などが異なる可能性があります。法人から依頼を受けるのであれば法人を契約当事者とし、役員個人からライフプラン相談として依頼を受けるのであれば個人を契約当事者とするなど、実態に合わせて契約書を作成することが重要です。
会社内部の手続とFP相談を分けて考える
FPとの相談契約を締結したこと自体によって、役員退職金の支給が会社内部で正式に決定されるわけではありません。
FPによる試算・助言は、あくまで意思決定のための材料として整理し、実際の支給については会社側で必要な確認や手続を行う必要があります。
この点を契約書でも明確にしておけば、FPの提案と法人としての正式決定を混同するリスクを抑えられます。
他の契約書をそのままコピーしない
役員退職金相談といっても、FPによって提供するサービスは異なります。
例えば、
- 退職金額のシミュレーションだけを行うFP
- 法人財務まで含めて相談を受けるFP
- 経営者個人のライフプランまで作成するFP
- 保険代理店業務等を別途行っているFP
では、必要となる契約内容が変わります。そのため、公開されている契約書をそのまま流用するのではなく、実際のサービス内容や保有資格・登録等に合わせて調整する必要があります。
役員退職金相談契約書とあわせて確認しておきたい事項
契約締結前には、少なくとも次の点をFPと相談者双方で確認しておくとよいでしょう。
- 誰が相談契約の当事者になるのか
- どの役員の退職金について相談するのか
- FPがどこまで相談に対応するのか
- 相談料金はいくらなのか
- 相談回数や相談期間はどの程度なのか
- どのような情報を相談者が提供するのか
- 役員退職金の試算結果をどのように扱うのか
- 税務や法律等の専門業務を含むのか
- 生命保険や金融商品の情報提供を行うのか
- 相談結果についてFPがどこまで責任を負うのか
これらを契約前に確認することで、相談者側はサービス内容を理解しやすくなり、FP側も自らの業務範囲を明確にできます。
役員退職金相談契約書を電子契約で締結するメリット
役員退職金相談契約書は、書面だけでなく、契約内容や運用に応じて電子契約による締結を検討することもできます。特にFPが全国の法人や経営者を対象としてオンライン相談を行っている場合、契約書を郵送して返送してもらう方法では、契約開始までに時間がかかることがあります。電子契約を活用すれば、契約書の送付、確認、締結、保管までオンラインで進めやすくなります。また、契約書をデータとして管理することで、継続相談の際に過去の契約条件を確認しやすくなるというメリットもあります。役員退職金相談では、相談期間や料金、業務範囲などを後から確認する場面も考えられるため、契約内容を適切に保存・管理しておくことが重要です。
まとめ
役員退職金相談契約書(FP)は、法人や経営者が役員退職金についてファイナンシャルプランナーへ相談する際に、相談内容、業務範囲、報酬、試算結果の位置付け、責任範囲などを明確にするための契約書です。役員退職金の相談では、法人の資金計画と役員個人のライフプランが関係するだけでなく、税務、法律、保険、金融商品など複数の専門分野が関係する可能性があります。
そのため契約書では、
- FPが対応する業務を具体的に定める
- 専門資格を必要とする業務との境界を明確にする
- 試算結果は一定の前提条件に基づく参考値であることを示す
- 相談者自身が最終的な意思決定を行うことを明確にする
- 秘密保持、個人情報、報酬、損害賠償等について定める
といった点が重要になります。また、役員退職金は金額が大きくなるケースもあり、税務その他の専門的な判断が必要になることがあります。契約書を作成するだけで完結させるのではなく、実際の支給条件や個別事情に応じて税理士、弁護士その他の専門家へ確認することが重要です。