スポット相談契約書(FP)とは?
スポット相談契約書(FP)とは、ファイナンシャルプランナー(FP)が顧客から単発又は限定された回数の相談を受ける際に、相談内容、業務範囲、相談料金、責任範囲などを明確にするための契約書です。
FPへの相談には、家計改善、資産形成、住宅資金、教育資金、老後資金、保険、公的年金など、幅広いテーマがあります。継続的な顧問契約ではなく、1回だけ相談したい場合や、特定のテーマだけ専門家の意見を聞きたい場合には、スポット相談という形が利用しやすいでしょう。しかし、単発の相談だからといって、契約関係を曖昧にしてよいわけではありません。特にFP業務では、相談者から収入、支出、資産、負債、家族構成、保険契約などの重要な情報を受け取る場合があります。また、相談内容によっては税務、法律、金融商品、保険、不動産など、他の専門資格や登録との関係にも注意しなければなりません。
そのため、スポット相談契約書では、
- FPがどのような相談に対応するのか
- 相談時間や相談方法をどうするのか
- 相談料金はいくらなのか
- 相談者がどのような情報を提供するのか
- 試算結果をどのように取り扱うのか
- 税務・法律・投資助言などの専門業務を含むのか
- 相談結果についてFPがどこまで責任を負うのか
といった事項をあらかじめ明確にしておくことが重要です。今回のひな形では、こうしたスポット相談特有の事項に加え、秘密保持、個人情報、成果物、キャンセル、損害賠償、契約解除などについても規定しています。プロジェクトで参照している契約書と同様、契約目的から義務、責任、契約終了、紛争解決まで体系的に整理する構成としています。
スポット相談契約書が必要となるケース
スポット相談契約書は、FPが顧客と継続的な契約を締結するのではなく、特定の相談テーマについて単発でサービスを提供する場合に適しています。代表的な利用ケースとして、次のようなものがあります。
- 家計の収支を一度だけチェックしてもらう場合
- 資産形成についてFPから一般的なアドバイスを受ける場合
- 住宅購入前に住宅資金について相談する場合
- 子どもの教育費について資金計画を確認する場合
- 老後に必要となる資金について試算を依頼する場合
- 現在加入している保険について一般的な情報提供を受ける場合
- 公的年金や社会保障制度について相談する場合
- オンラインで60分、90分など時間制のFP相談を実施する場合
スポット相談は、相談者にとって気軽に利用できる反面、相談内容や責任範囲について認識の違いが生じやすいサービスでもあります。
例えば、相談者は「FPに相談したのだから将来の資金について正確な結果を教えてもらえる」と考えている一方、FP側は「現在の情報を基にした参考試算を提供しただけ」と認識している場合があります。
こうした認識の違いを防止するためにも、相談開始前に契約条件を書面化しておくことが重要です。
スポット相談契約書に盛り込むべき主な条項
FP向けのスポット相談契約書では、一般的な業務契約に関する条項だけでなく、ファイナンシャルプランニング業務の特徴を踏まえた条項を設ける必要があります。
主な条項としては、次のものが挙げられます。
- 契約の目的
- 相談業務の内容
- 相談業務の範囲
- 対象外となる専門業務
- 相談者による情報提供
- 資金計画等の試算
- 金融商品等に関する情報提供
- 法令及び公的制度等に関する情報提供
- 相談報酬及び費用
- 相談日時の変更及びキャンセル
- 第三者の商品・サービスに関する取扱い
- 利益相反等
- 秘密保持
- 個人情報の取扱い
- 相談資料等の取扱い
- 成果物等の利用
- 非保証
- 損害賠償
- 禁止事項
- 契約解除
- 反社会的勢力の排除
- 契約期間
- 協議事項
- 準拠法及び合意管轄
単に「相談料金」と「相談時間」だけを決めるのではなく、FPが提供するサービスの限界まで契約書で明確にしておくことがポイントです。
スポット相談契約書の条項ごとの解説
1. 契約の目的
目的条項では、FPが相談者に対してスポット形式でファイナンシャルプランニングに関する相談業務を提供することを明確にします。継続的な顧問契約ではなく、単発又は限定された回数の相談であることを明示しておけば、相談終了後も継続的な助言義務が存在すると誤解されるリスクを抑えやすくなります。
2. 相談業務の内容
相談業務の内容は、スポット相談契約書の中心となる条項です。FPが取り扱うテーマとしては、家計、貯蓄、資産形成、住宅、教育、老後、保険、公的年金などがあります。ただし、すべての相談を一律に対象とする必要はありません。例えば、「住宅購入に伴う家計相談」「老後資金に関する90分相談」など、今回のスポット相談で取り扱うテーマを具体的に記載する方法も有効です。相談日時、相談時間、相談方法、主な相談事項についても契約時に記載しておけば、「60分の契約だったのに相談が長時間続いてしまった」といったトラブルを防止しやすくなります。
3. 相談業務の範囲
FPのスポット相談では、「相談」と「意思決定」を区別しておくことが重要です。FPは相談者に対して情報、選択肢、考え方などを提供しますが、原則として相談者に代わって人生や資産に関する最終判断を行うわけではありません。そのため、契約書には、FPによる情報提供や助言を参考にしながら、最終的な意思決定は相談者自身が行う旨を定めておくことが考えられます。
4. 対象外となる専門業務
FP契約では特に重要な条項です。FPへの相談テーマは、税金、相続、金融商品、保険、不動産などと密接に関係します。しかし、FP資格を有していることだけを理由として、他の法令上資格・登録等を必要とする業務を当然に行えるわけではありません。
そこで、契約書では、
- 法律事務
- 税務代理、税務書類の作成、個別具体的な税務相談
- 登録等を必要とする投資助言その他の金融商品取引関連業務
- 法令上の登録等を必要とする保険募集
- 免許等を必要とする不動産媒介
- その他専門資格者の独占業務
などについて、乙が必要な資格・登録等を有し、別途対応する場合を除いて本契約の対象外とする構成が考えられます。「FP相談だから何でも相談できる」という誤解を防ぐうえでも、業務範囲の線引きは重要です。
5. 相談者による情報提供
FPは、相談者から提供された情報を基礎として相談や試算を行います。例えば、老後資金について相談する場合でも、現在の収入、生活費、貯蓄額、住宅ローン、保険、家族構成などが分からなければ、適切な検討は困難です。そのため、相談者には必要な情報を可能な限り正確かつ最新の状態で提供してもらうことが重要です。また、相談者から提供された情報が不正確だった場合、その情報を前提として作成した試算結果も実態と異なる可能性があります。契約書では、このような情報提供と試算結果の関係についても明確にしておくとよいでしょう。
6. 資金計画等の試算
FP相談では、ライフプラン表やキャッシュフロー表などを用いて将来の資金を試算することがあります。しかし、試算は将来を確定するものではありません。例えば、現在の年収が今後も継続することを前提として計算していても、転職、退職、病気、結婚、出産などによって収入や支出が変化する可能性があります。また、物価、金利、為替、運用成果、税制、社会保障制度なども変化します。したがって、契約書では試算が一定の前提条件に基づく参考情報であり、将来の結果を保証するものではないことを明確にしておくことが重要です。
7. 金融商品等に関する情報提供
資産形成相談では、預貯金、保険、投資信託、有価証券などが話題になることがあります。ここでは、FPが行う一般的な情報提供と、法令上登録等が必要となり得る業務との区別が重要になります。契約書では、FPが自己の資格・登録等の範囲内でサービスを提供することを前提とし、特定の商品に関する情報提供が直ちに利益や成果を保証するものではないことを明確にしておくことが考えられます。
8. 法令・税制・公的制度に関する情報
FP相談では、公的年金、社会保険、税制、各種給付制度などについて説明するケースもあります。これらの制度は改正されることがあるため、相談時点では正しかった情報が、数年後もそのまま適用されるとは限りません。特に住宅購入、相続、退職など重要な手続を実行する段階では、関係行政機関や適切な専門家に最新情報を確認することが重要です。
9. 相談報酬及び費用
スポット相談では、料金体系を明確にすることが非常に重要です。
例えば、
- 60分5,000円
- 90分10,000円
- 1相談15,000円
- 相談+ライフプラン表作成で20,000円
など、サービス内容によって料金体系は異なります。契約書には、相談報酬、税込・税別の区分、支払方法、支払期限などを記載します。また、交通費や資料取得費などが別途発生する場合には、その負担についても定めておくと安心です。
10. 相談日時の変更・キャンセル
スポット相談では、相談枠そのものがサービス提供者の時間的資源となります。そのため、直前キャンセルや無断キャンセルについてルールを設けておくことが重要です。例えば、「前日キャンセルは相談料金の50%」「当日キャンセルは100%」などの条件を設定する場合には、契約前に相談者が確認できるよう明確にしておきます。オンライン相談の場合には、通信障害などによって相談できなかった場合の取扱いについても検討しておくとよいでしょう。
11. 第三者の商品・サービス
相談内容によっては、FPが保険会社、金融機関、不動産会社その他の第三者の商品・サービスに言及することがあります。第三者と相談者との間で契約が成立する場合、FP自身が契約当事者となるケースを除けば、その商品・サービスの提供主体は第三者です。そのため、相談者自身が契約条件、費用、リスクなどを確認することを明確にしておくことが重要です。
12. 利益相反等
FPが特定の商品やサービスを紹介することで、第三者から紹介料や手数料などを受け取る場合があります。このような経済的利益が相談内容に影響する可能性がある場合には、相談者が判断するために必要な情報を適切に説明することが重要です。特に「中立的な相談だと思っていたが、実際には特定商品の販売につながる仕組みだった」という認識のずれは、相談者との信頼関係を損なう原因になります。
13. 秘密保持・個人情報
FP相談では、相談者の非常にプライベートな情報を取り扱うことがあります。
具体的には、
- 年収
- 預貯金額
- 住宅ローン残高
- 保険契約
- 家族構成
- 将来の生活計画
などです。そのため、秘密保持条項と個人情報の取扱いに関する条項は重要です。相談で知った情報を正当な理由なく第三者へ開示しないことや、取得した個人情報を関係法令に従って取り扱うことを契約上明確にします。秘密情報について、一定の例外を設けながら秘密保持義務を定める方法は、プロジェクトで参照している契約書でも採用されています。
14. 成果物等の利用
スポット相談でも、FPがライフプラン表、キャッシュフロー表、資金計画表、相談レポートなどを作成することがあります。これらについては、相談者本人の意思決定に利用できる一方、FP独自の書式やノウハウまで自由に販売・転載できるわけではないという整理が必要になる場合があります。そこで、相談者による利用範囲と、FPが従前から保有している書式・ノウハウ等の権利関係を明確にしておくことが考えられます。
15. 非保証
非保証条項は、FPのスポット相談では特に重要です。
FPが専門的な知識を使って相談に対応したとしても、
- 必ず資産が増える
- 必ず家計が改善する
- 必ず住宅ローン審査に通る
- 必ず希望する保険金が支払われる
- 必ず節税できる
- 将来の老後資金が不足しない
といった結果まで当然に保証できるものではありません。そのため、相談や試算は意思決定を補助するためのものであり、特定の結果を保証するものではないことを契約書に明記します。
16. 損害賠償
契約違反によって損害が発生した場合に備えて、損害賠償についても規定します。特にFP相談では、相談者から提供された情報が不正確だった場合や、相談後に税制・市場環境・生活状況などが変化した場合までFPが一律に責任を負うとすると、責任範囲が不明確になります。一方で、FP側の故意又は重大な過失による損害まで一律に免責するような規定には慎重な検討が必要です。そのため、責任範囲について合理的な線引きを行うことが重要です。
FPのスポット相談で特に注意したいポイント
相談範囲を曖昧にしない
最も重要なのは「今回の料金で何をしてもらえるのか」を明確にすることです。例えば、60分のオンライン相談のみなのか、相談後のメール質問も含まれるのか、ライフプラン表の作成まで含まれるのかによって業務量は大きく異なります。スポット相談では、契約時にサービス範囲をできるだけ具体化しておくことが重要です。
専門業務との境界を確認する
FP相談は複数の専門領域と隣接します。税務、法律、金融商品、保険、不動産などについては、具体的な業務内容によって資格、登録、免許等との関係を確認する必要があります。契約書に対象外業務を書くだけではなく、実際の相談対応についても、自らが行える業務範囲を確認することが重要です。
試算と保証を区別する
「老後に3,000万円必要です」「この運用なら将来5,000万円になります」といった将来に関する数字は、前提条件によって変化します。
試算を提示する場合には、計算の前提となった収入、支出、利率、物価上昇率などを可能な範囲で明確にしておくと、相談者も結果を理解しやすくなります。
オンライン相談では通信環境も想定する
Zoom等を利用したオンラインFP相談では、通信障害、端末トラブル、音声不良などによって予定どおり相談できないことがあります。オンライン相談を中心に提供する場合は、再接続、日時変更、返金などのルールについて利用規約やキャンセルポリシーと整合させておくと運用しやすくなります。
相談後の追加対応を決めておく
スポット相談終了後に、「あと1つだけ質問したい」「資料を見てもらいたい」という依頼が続くことがあります。どこまでが当初の相談料金に含まれ、どこから追加料金となるのかを明確にしておくことで、FP側の負担増加と相談者側の不満の双方を防ぎやすくなります。
スポット相談契約書を作成する際の注意点
スポット相談契約書は、テンプレートをそのまま利用するのではなく、実際のFPサービスに合わせて調整することが重要です。
特に確認したいのは、
- 実際に提供している相談メニューと契約書の業務内容が一致しているか
- 相談料金、支払期限、キャンセル料が実際の運用と一致しているか
- 相談後の質問や追加相談についてルールがあるか
- FP自身の資格・登録等と相談範囲が整合しているか
- 金融商品や保険商品の紹介を行う場合、その取扱いが適切に整理されているか
- 個人情報の取扱いについて実際の運用と契約内容が一致しているか
- オンライン相談の場合の通信障害等への対応が決まっているか
という点です。また、FP事務所のWebサイトにキャンセルポリシー、プライバシーポリシー、オンライン相談利用規約などを掲載している場合には、それぞれの内容がスポット相談契約書と矛盾していないか確認する必要があります。
スポット相談契約書と顧問契約書の違い
スポット相談契約と顧問契約の大きな違いは、サービス提供の継続性です。スポット相談は、特定の日又は特定のテーマについて相談を行い、原則としてその相談が終了すれば契約関係も終了する形を想定しています。一方、顧問契約では、一定期間にわたり継続的に相談へ対応することが中心になります。そのため、顧問契約では月額報酬、相談回数、対応時間、契約更新、中途解約などが重要になりますが、スポット相談では相談日時、相談時間、今回の相談範囲、単発料金、キャンセル条件などがより重要になります。サービス内容に応じて契約書を使い分けることがポイントです。
スポット相談契約書を電子契約で締結するメリット
FPのスポット相談は、オンラインで予約から相談まで完結するケースとも相性があります。そのような場合、契約書だけ紙で郵送すると、相談開始までに時間がかかることがあります。電子契約を利用すれば、契約書をオンラインで確認し、合意手続を進めることができるため、遠方の相談者とのスポット相談でも契約手続を進めやすくなります。また、契約書を電子的に保管することで、「どの相談者と、どの条件で契約したのか」を後から確認しやすくなる点もメリットです。特に複数の相談メニューを提供するFPの場合には、相談内容ごとに契約書ひな形を整備し、実際のサービス内容に応じて使い分けると契約管理を行いやすくなります。
まとめ
スポット相談契約書(FP)は、ファイナンシャルプランナーが単発又は限定された回数の相談サービスを提供する際に、FPと相談者の権利・義務や責任範囲を明確にするための契約書です。FP相談では、家計、資産形成、住宅、教育、老後、保険、公的制度など幅広いテーマを取り扱うため、単に相談日時と料金だけを決めるのでは十分とはいえません。
特に、
- 相談業務の具体的な範囲
- 税務・法律・投資助言等との業務上の線引き
- 相談者による正確な情報提供
- 試算結果の位置付け
- 金融商品等に関する情報提供
- 料金及びキャンセル条件
- 秘密保持及び個人情報
- 特定の成果を保証しないこと
- 損害賠償その他の責任範囲
を明確にしておくことが重要です。スポット相談は手軽に提供できるサービスだからこそ、「どこまでが今回の相談に含まれるのか」「FPが何を保証するのか、又は保証しないのか」を契約段階で整理しておく必要があります。