インフルエンサー宿泊PR契約書とは?
インフルエンサー宿泊PR契約書とは、ホテル・旅館などの宿泊施設がインフルエンサーやクリエイターに宿泊体験を提供し、Instagram、TikTok、YouTube、ブログなどで施設や宿泊プランを紹介してもらう際に、PR業務の条件を定める契約書です。近年では、宿泊施設の集客方法として、公式サイトや旅行予約サイトへの広告掲載だけでなく、SNSを活用したインフルエンサーマーケティングが広く利用されています。実際に施設へ宿泊したインフルエンサーが、客室、料理、温泉、館内施設などを写真や動画で紹介することで、宿泊を検討しているユーザーへ施設の魅力を伝えやすくなります。
一方で、インフルエンサー宿泊PRでは、単に無料で宿泊してもらうだけではなく、
- どのSNSに投稿するのか
- 何回投稿するのか
- いつまでに投稿するのか
- どのような写真・動画を掲載するのか
- PRや広告であることをどのように表示するのか
- 投稿された写真や動画をホテル側が二次利用できるのか
- 投稿をいつまで公開してもらうのか
- 宿泊後に投稿されなかった場合にどう対応するのか
といった事項を事前に決めておく必要があります。特に、宿泊料金や食事代を無料にする代わりにSNS投稿を依頼するケースでは、双方の認識が曖昧なまま進めるとトラブルにつながる可能性があります。そのため、ホテル・旅館がインフルエンサーへ宿泊PRを依頼する場合には、投稿条件や宿泊条件だけでなく、広告表示、撮影、著作権、肖像利用、投稿削除、キャンセルなどについて契約書で整理しておくことが重要です。
インフルエンサー宿泊PR契約書が必要となるケース
インフルエンサー宿泊PR契約書は、宿泊施設とインフルエンサーとの間で、宿泊体験とSNS等による情報発信を組み合わせたPR施策を実施する場合に利用できます。代表的な利用ケースとして、次のようなものがあります。
- ホテルが旅行系インフルエンサーを招待し、Instagramで宿泊体験を紹介してもらう場合
- 旅館がTikTokクリエイターへ無料宿泊を提供し、客室や温泉、料理を動画で紹介してもらう場合
- リゾートホテルがYouTuberへ宿泊を提供し、宿泊レビュー動画を制作してもらう場合
- 新規開業したホテルが複数のインフルエンサーを招待してSNSキャンペーンを実施する場合
- ホテルが新しい宿泊プランや客室をインフルエンサーに体験してもらう場合
- 旅館が季節限定料理や温泉プランをSNSでPRしてもらう場合
- ホテルがインフルエンサーの投稿写真や動画を公式サイトや公式SNSでも利用したい場合
特に注意したいのが、金銭による報酬が発生しないケースです。インフルエンサーに報酬を支払わず、宿泊料金や食事代を無料にするケースでも、宿泊サービスという経済上の利益を提供する代わりにPR投稿を依頼しているのであれば、その条件を明確にしておくことが重要です。無料宿泊だから契約書は必要ないと考えるのではなく、何を提供し、その代わりに何を依頼するのかを契約書で明確にすることで、双方の認識違いを防ぎやすくなります。
インフルエンサー宿泊PR契約書に盛り込むべき主な条項
ホテル・旅館向けのインフルエンサー宿泊PR契約書では、一般的に次のような事項を定めます。
- 契約の目的
- PR業務の内容
- 宿泊条件
- 報酬及び費用
- 投稿内容
- 広告であることの表示
- 館内での撮影条件
- 投稿前の確認
- 投稿の公開期間
- 投稿コンテンツの著作権
- ホテル・旅館によるコンテンツの二次利用
- 施設名・ロゴ・商標等の使用
- 禁止事項
- 秘密保持
- 個人情報の取扱い
- 投稿の修正・削除
- 信用毀損やトラブル発生時の対応
- 再委託
- 契約解除
- キャンセル及び日程変更
- 損害賠償
- 反社会的勢力の排除
- 契約期間
- 準拠法・合意管轄
インフルエンサー宿泊PRでは、通常の広告業務委託とは異なり、宿泊サービスの提供、施設内での撮影、SNS投稿、写真・動画の利用など複数の要素が組み合わされます。
そのため、単純な業務委託契約だけではなく、宿泊PR特有の条件まで具体的に定めることがポイントです。
条項ごとの解説と実務ポイント
1. PR業務の内容
最初に明確にしておきたいのが、インフルエンサーが具体的に何を行うのかという点です。例えば、Instagramへの投稿を依頼するとしても、フィード投稿、リール、ストーリーズでは内容が異なります。また、TikTokやYouTubeでは動画の長さや制作負担も変わります。
契約時には、
- 投稿媒体
- 対象アカウント
- 投稿形式
- 投稿回数
- 投稿期限
- 指定ハッシュタグ
- 施設公式アカウントへのタグ付け
- 指定URLの掲載
などを具体的に定めておくとよいでしょう。例えば、Instagramリール1本とストーリーズ3本を投稿する、といった形で具体化しておけば、投稿回数をめぐる認識違いを防ぎやすくなります。
2. 宿泊条件
インフルエンサー宿泊PRでは、PR業務だけでなく、ホテル・旅館側が提供する宿泊内容も明確にする必要があります。宿泊日、人数、客室タイプ、食事の有無、館内サービスなどを記載します。また、無償提供される範囲を明確にすることも重要です。宿泊料金は無料でも、ミニバー、追加料理、ルームサービス、スパ、貸切風呂などまで無料になるとは限りません。無償提供の範囲が曖昧だと、チェックアウト時の精算でトラブルになる可能性があります。そのため、PR目的で提供するサービスとインフルエンサー自身が負担するサービスを分けておくと安心です。
3. 報酬・交通費等の条件
インフルエンサーPRでは、契約形態によって報酬条件が大きく異なります。
- 宿泊のみを無償提供する
- 宿泊と食事を無償提供する
- 無償宿泊に加えてPR報酬を支払う
- 交通費までホテル側が負担する
などさまざまです。そのため、報酬額だけではなく、宿泊費、飲食費、交通費、撮影費、編集費などを誰が負担するのか明確にしておきます。金銭報酬がある場合には、金額、税込・税別、支払期限、振込方法なども定めておきましょう。
4. 広告・PRであることの表示
インフルエンサー宿泊PRでは、広告であることの表示についても重要なポイントとなります。ホテル・旅館から金銭報酬を受け取る場合だけでなく、無償宿泊や食事などの提供を受けて投稿する場合にも、投稿と事業者との関係を適切に表示する必要があります。契約書では、適用される法令、行政上の指針、SNSプラットフォームのルールなどに従い、一般の閲覧者が広告・PR投稿であることを認識できるよう表示することを定めておく方法があります。ホテル側が投稿方法を指示する場合も、広告であることを隠すような投稿を求めるのではなく、適切な表示を前提としてPR施策を設計することが重要です。
5. 投稿内容とインフルエンサーの評価
ホテル側としては、できるだけ魅力的に施設を紹介してほしいところですが、インフルエンサー本人の感想まで過度にコントロールする契約は避ける必要があります。一方で、料金、営業時間、客室設備、サービス内容などの客観的情報が間違っている場合には修正できるようにしておくことが重要です。
そのため、
- 客観的事実の誤りは修正対象とする
- 法令違反や第三者の権利侵害がある場合は修正できる
- 本人の率直な感想や評価については不当に変更を強制しない
という形で整理すると、施設側のブランド管理とインフルエンサーの表現とのバランスを取りやすくなります。
6. 館内撮影に関するルール
宿泊PRでは、客室だけでなく、ロビー、レストラン、大浴場、温泉、プールなどが撮影対象になることがあります。
しかし、ホテル・旅館には一般の宿泊客もいるため、撮影ルールを決めずに自由な撮影を認めると、他の宿泊客のプライバシーに関する問題が発生する可能性があります。
契約書では、撮影可能場所、撮影禁止場所、撮影可能時間などを必要に応じて定めます。
特に大浴場や更衣スペースなど、プライバシーへの配慮が強く求められる場所では、施設側の事前許可や撮影時間の指定など、通常の客室撮影とは異なる管理が必要になります。
また、ドローンや大型照明などを使用する本格的な撮影では、通常の宿泊PRとは別に撮影条件を設定することも検討しましょう。
7. 他の宿泊客や従業員の肖像・プライバシー
インフルエンサーが館内を撮影すると、背景に他の宿泊客や従業員が映り込むことがあります。そのため、第三者の顔、会話、氏名その他個人を特定できる情報が本人の同意なく公開されないよう注意する必要があります。施設側が撮影場所を指定したり、必要に応じて一般宿泊客の少ない時間帯を案内したりすることも有効です。従業員を積極的に動画へ出演させる場合には、施設側でも出演の可否を事前に確認しておくことが望まれます。
8. 投稿前確認
投稿前にホテル・旅館側が内容を確認する場合には、どこまで修正を求められるのかを決めておきます。
確認対象として考えられるのは、
- 施設名称
- 宿泊料金
- 営業時間
- サービス内容
- キャンペーン期間
- 第三者の映り込み
- 広告表示
などです。投稿前確認を導入する場合は、施設側の確認期限も設定しておくとスムーズです。確認に時間がかかり、予定していた投稿日に間に合わないという事態を防ぐためです。
9. 投稿の公開期間
投稿後すぐに削除されてしまえば、ホテル側が期待していたPR効果を得られない可能性があります。そこで、契約書では、投稿から3か月、6か月、1年間など一定の公開期間を定める方法があります。ただし、SNSサービスの終了、アカウント停止、第三者からの権利侵害の申立てなど、インフルエンサーだけでは対応できない事情も考えられます。そのため、公開期間を定める場合には、例外となるケースについても整理しておくとよいでしょう。
10. 写真・動画等の著作権
宿泊PRで特にトラブルになりやすいのが、インフルエンサーが撮影した写真や動画の利用です。インフルエンサーが制作した写真や動画だからといって、ホテル側が当然に自由利用できるわけではありません。
ホテル側が、
- 公式Instagramへ転載する
- 公式Webサイトへ掲載する
- 予約サイトの広告素材として利用する
- 館内ポスターへ掲載する
- Web広告へ使用する
といった利用を予定している場合には、その利用範囲を契約書で定める必要があります。
11. コンテンツの二次利用
インフルエンサーの投稿をホテル側でも利用する場合には、利用媒体、利用期間、利用地域、広告利用の可否などを明確にしておきます。特に重要なのが、通常のSNS転載と広告利用を区別することです。ホテル公式SNSで投稿を紹介することと、その写真や動画を広告クリエイティブとして継続的に配信することでは、利用方法が大きく異なります。
そのため、
- 公式SNSへの転載は可能
- 公式サイトへの掲載は可能
- 有料広告への使用は別途承諾が必要
など、利用範囲を具体的に設定することが実務上重要です。
12. 氏名・活動名・肖像の利用
ホテル側がインフルエンサーの写真とともに、〇〇さんが宿泊しました、〇〇さんおすすめの宿、といった形でPRする場合には、投稿コンテンツだけでなく、氏名、活動名、アカウント名、肖像などの利用条件にも注意する必要があります。契約書では、ホテル側が利用できる媒体や期間を明確にし、契約時に想定していなかった広告へ無制限に利用されることを防げるようにします。これはホテル側だけでなく、インフルエンサー側の権利を明確にする意味でも重要な条項です。
13. 投稿の修正・削除
投稿後に料金やサービス内容の誤りが判明したり、第三者の権利を侵害する画像が含まれていることが判明したりする場合があります。そのため、重大な事実誤認、法令違反、権利侵害などがある場合には、ホテル側が修正又は削除を求められるようにしておくとよいでしょう。一方、ホテル側が単に投稿内容を気に入らないという理由だけで自由に削除を要求できる内容にすると、インフルエンサーとのトラブルにつながります。削除を求められる条件を具体的に設定しておくことが重要です。
14. 炎上・信用毀損などへの対応
インフルエンサー施策では、契約締結後にインフルエンサー又は施設側に重大な不祥事などが発生する可能性もあります。そのような場合、予定どおり投稿すると、もう一方のブランドイメージにも影響する可能性があります。
そのため、重大な問題が発生した場合に、
- 投稿を延期する
- 投稿を一時非公開にする
- 投稿を削除する
- PR企画そのものを中止する
- 契約を解除する
といった対応を協議できるようにしておくことも重要です。
15. キャンセル・宿泊後の未投稿への対応
宿泊PRでは、通常の広告契約にはないキャンセルリスクがあります。例えば、インフルエンサーが無料で宿泊したにもかかわらず、約束した投稿を行わないケースです。このような場合に備えて、宿泊後にインフルエンサー側の責任でPR業務が履行されなかった場合には、再投稿、報酬の調整、無償提供した宿泊サービス相当額の精算などについて協議できるよう定めておく方法があります。反対に、台風、交通機関の停止、施設休業など当事者の責任ではない事情によって宿泊できなくなることもあります。キャンセルと日程変更については、原因ごとに対応を分けておくことがポイントです。
インフルエンサー宿泊PR契約書を作成する際の注意点
PR内容を曖昧にしない
SNSで紹介してください、とだけ決めてしまうと、ホテル側は動画投稿を想定していたのに、インフルエンサー側はストーリーズ1回だけを想定していた、といった認識違いが起こる可能性があります。媒体、形式、投稿数、投稿期限などはできるだけ具体的に記載しましょう。
無料宿泊の範囲を明確にする
宿泊PRでは、どこまでが無償提供なのかを明確にする必要があります。宿泊料金だけなのか、夕食・朝食も含むのか、同伴者も無料なのか、追加サービスは有料なのかを事前に整理します。特に高額な館内サービスを提供しているホテル・旅館では、無料提供の対象を具体的に記載しておくことが重要です。
広告表示をインフルエンサー任せにしない
広告表示については、投稿者だけの問題と考えず、PRを依頼するホテル・旅館側でも確認することが重要です。金銭報酬や宿泊サービスなどの提供と投稿との関係について、一般の閲覧者が誤認しない表示となるよう、契約段階からルールを整理しておきましょう。
二次利用の条件を必ず確認する
インフルエンサーの写真や動画は、宿泊施設にとって魅力的な広告素材になる場合があります。しかし、PRを依頼したという理由だけで、施設側があらゆる媒体で自由に利用できるとは限りません。公式SNS、公式サイト、Web広告、パンフレットなど、利用したい媒体をあらかじめ整理し、必要な利用許諾を契約書に盛り込むことが重要です。
SNSごとの利用規約も確認する
Instagram、TikTok、YouTubeその他のサービスには、それぞれ投稿、広告、タイアップ等について独自のルールがあります。契約書だけを確認するのではなく、実際に投稿する時点で利用するSNS等の最新ルールを確認する必要があります。
宿泊約款・館内利用規則との整合性を取る
インフルエンサーも施設を利用する以上、原則としてホテル・旅館の宿泊約款や館内利用規則に従うことになります。インフルエンサー宿泊PR契約書によって撮影を許可する場合でも、一般宿泊客の安全やプライバシーを損なわないよう、施設側の既存ルールとの整合性を確認しましょう。
案件ごとに契約条件を変更する
インフルエンサー宿泊PRは、案件によって内容が大きく異なります。フォロワー数の多いインフルエンサーへ大規模な動画制作を依頼する場合と、地域のマイクロインフルエンサーへ無償宿泊を提供してInstagram投稿を依頼する場合では、必要な契約条件も異なります。
特に、
- 報酬
- 宿泊サービスの提供範囲
- 投稿数
- 投稿期限
- 公開期間
- 二次利用期間
- 広告利用の可否
- キャンセル条件
は案件ごとに調整することが重要です。
インフルエンサー宿泊PR契約書を電子契約で締結するメリット
インフルエンサーPRは、ホテル所在地とインフルエンサーの居住地が離れているケースも多く、契約書を郵送して締結すると手続きに時間がかかります。電子契約を利用すれば、オンライン上で契約書を送付し、双方が内容を確認して契約手続きを進めることができます。また、複数のインフルエンサーを招待するPRキャンペーンでは、契約件数が増えることがあります。
契約書を電子化することで、
- 契約書の郵送作業を減らせる
- 契約状況を管理しやすくなる
- 過去の契約内容を確認しやすくなる
- 案件ごとの投稿条件や利用許諾を記録として残しやすくなる
といったメリットがあります。特に写真・動画の二次利用期間などは、PR終了後も確認する可能性があるため、契約内容を適切に保存・管理しておくことが重要です。
まとめ
インフルエンサー宿泊PR契約書は、ホテル・旅館がインフルエンサーへ宿泊体験を提供し、SNS等を通じて施設をPRしてもらう際の条件を明確にするための契約書です。インフルエンサー宿泊PRでは、通常の宿泊契約とは異なり、宿泊サービスの提供と広告・コンテンツ制作が一体となっています。
そのため、契約書では、
- 宿泊条件
- 投稿媒体・回数・期限
- 報酬・費用
- 広告・PR表示
- 館内撮影
- 投稿前確認
- 投稿の公開期間
- 著作権
- 写真・動画の二次利用
- 氏名・肖像等の利用
- 投稿の修正・削除
- キャンセル・契約解除
などを具体的に定めることが重要です。特に、無償宿泊と引き換えにPR投稿を依頼する場合でも、双方の義務を曖昧にしないことがポイントです。誰が、いつ、どの媒体で、どのようなPRを行うのか、ホテル側は投稿された写真や動画をどこまで利用できるのかを事前に整理することで、宿泊PRを円滑に実施しやすくなります。また、広告表示やSNSのルールは変更される可能性があるため、実際の施策では最新の法令、行政上の指針、各SNS等の規約を確認することが大切です。案件の規模や内容によっては、弁護士その他の専門家による契約内容の確認も検討するとよいでしょう。