秘密保持契約書(コールセンター運営)とは?
秘密保持契約書(コールセンター運営)とは、企業が電話代行会社やコールセンター運営会社などに電話受付・問い合わせ対応・受発信業務を委託する際に、業務上取り扱う秘密情報の管理方法や利用範囲を定める契約書です。コールセンター業務では、一般的な業務委託と比較して、オペレーターが日常的に顧客や取引先と直接会話し、その過程でさまざまな情報に触れます。そのため、秘密保持契約では単に企業の営業秘密だけを対象にするのではなく、
- 顧客の氏名・電話番号・メールアドレスなどの情報
- 問い合わせや相談などの通話内容
- 通話録音・音声データ
- 文字起こしデータ
- 問い合わせ・クレームなどの対応履歴
- CRMなどの顧客管理システムに登録された情報
- 電話対応マニュアル
- トークスクリプトやFAQ
- 商品・サービス・料金に関する非公開情報
- ID・パスワードなどのシステム認証情報
などを適切に保護することが重要です。本ひな形では、秘密情報の定義だけでなく、目的外利用の禁止、個人情報の取扱い、通話録音データの管理、システム・アカウント情報の管理、再委託、情報漏えい等の事故発生時の対応、契約終了後のデータ削除など、電話代行・コールセンター運営で問題となりやすい事項をまとめています。
コールセンター運営で秘密保持契約書が必要となる理由
電話代行やコールセンター業務では、委託先が委託元企業の内部情報だけでなく、その企業の顧客に関する情報まで取り扱うことがあります。例えば、商品の問い合わせ窓口を外部のコールセンターへ委託する場合、オペレーターは顧客の氏名や連絡先だけでなく、購入商品、問い合わせ内容、返品・交換に関する情報などを把握する可能性があります。また、予約受付業務であれば予約者情報、採用受付であれば応募者情報、企業の代表電話代行であれば取引先や営業担当者から伝えられた情報など、業務内容によって取り扱う情報も変わります。
そのため、委託開始前に、
- 何を秘密情報として扱うのか
- 誰が情報へアクセスできるのか
- どの目的まで利用できるのか
- 情報を複製・保存してよいのか
- 第三者へ再委託できるのか
- 情報漏えいが発生した場合にどう対応するのか
- 契約終了後に情報をどう処理するのか
といったルールを明確にしておくことが重要です。一般的な秘密保持契約でも秘密情報の保護は可能ですが、コールセンター業務では通話録音やCRM、電話システムなど特有の情報・システムが存在します。そのため、実際の運用に合わせた条項を設けることで、情報管理のルールをより明確にできます。
秘密保持契約書(コールセンター運営)が利用される主なケース
電話代行会社へ代表電話の受付を委託する場合
企業の代表電話を外部の電話代行会社へ転送し、オペレーターが一次対応するケースです。担当者名、取引先名、連絡先、問い合わせ内容などを取り扱うため、これらの情報を電話代行会社が第三者へ漏らしたり、別の目的で利用したりしないよう秘密保持義務を定めます。
カスタマーサポートを外部委託する場合
商品やサービスに関する問い合わせ窓口を外部コールセンターへ委託する場合にも利用できます。顧客情報だけでなく、商品仕様、社内FAQ、対応マニュアル、未公開サービス情報などが共有される可能性があるため、保護対象を具体的に定めておくことが重要です。
予約受付を外部コールセンターへ委託する場合
ホテル、飲食店、クリニック、各種サービスなどの予約受付を外部委託する場合、氏名、電話番号、予約日時、利用内容などの情報を取り扱います。業務に必要な情報をどこまで保存できるのか、業務終了後にどのように削除するのかについても契約で整理しておくことが考えられます。
コールセンター業務の一部を再委託する場合
受託したコールセンター会社が、業務の一部を別会社や外部スタッフへ再委託する場合があります。この場合、最初の委託先だけに秘密保持義務を課しても、再委託先の管理が不十分であれば情報漏えいにつながる可能性があります。そのため、本ひな形では再委託について事前承諾を求め、再委託先にも同等以上の秘密保持義務・情報管理義務を負わせる構成としています。
秘密保持契約書に盛り込むべき主な条項
コールセンター運営向けの秘密保持契約書では、主に次のような事項を定めます。
- 契約の目的
- 秘密情報の定義
- 秘密保持義務
- 目的外利用の禁止
- 個人情報の取扱い
- 通話内容・録音データの取扱い
- システム・アカウント情報の管理
- 秘密情報の複製制限
- 再委託に関する条件
- 法令等に基づく情報開示
- 情報漏えい等の事故発生時の対応
- 秘密情報の返還・削除
- 権利の帰属
- 損害賠償
- 差止め
- 契約期間・秘密保持義務の存続期間
- 契約上の地位等の譲渡禁止
- 反社会的勢力の排除
- 協議事項
- 準拠法・合意管轄
一般的な秘密保持契約でも、秘密情報の定義、第三者への開示禁止、目的外利用の禁止、返還・廃棄、損害賠償などが主要な構成要素となります。
条項ごとの解説と実務ポイント
1. 秘密情報の定義
秘密保持契約で最初に重要となるのが、何を秘密情報として保護するのかという定義です。一般的な秘密保持契約では、秘密である旨を表示して開示した情報を秘密情報とする方法があります。参照資料でも、書面・電磁的方法による情報や、一定の条件を満たした口頭開示情報などを秘密情報として定義する構成が示されています。一方、コールセンターでは、電話による会話やシステム上の情報など、秘密表示を付けることが現実的ではない情報が大量に発生します。
そのため、本ひな形では、
- 顧客情報
- 通話内容
- 録音データ
- 文字起こしデータ
- 対応履歴
- CRM情報
- 対応マニュアル
- トークスクリプト
- 認証情報
などを具体的に秘密情報へ含めています。
2. 秘密保持義務
秘密保持義務では、受領した秘密情報を適切に管理し、許可なく第三者へ開示しないことを定めます。ただし、コールセンターでは複数のオペレーターや管理者が業務に関与するため、誰にも情報を開示できないという規定では業務が成立しません。そこで、業務遂行上情報を知る必要がある役員、従業員、スタッフなどに限定して情報へのアクセスを認め、その者にも秘密保持義務を遵守させる構成が実務上重要になります。参照している秘密保持契約書でも、業務上情報を知る必要がある役員・従業員への限定的な開示と、開示先に同等の義務を遵守させる考え方が採用されています。
3. 目的外利用の禁止
秘密情報は、第三者へ漏らさなければ自由に利用できるわけではありません。電話代行会社が委託業務で取得した顧客リストを自社営業へ利用したり、問い合わせをした顧客へ別の商品を案内したりすれば、委託目的を超えた利用となる可能性があります。そのため、秘密保持契約では第三者への漏えい防止だけでなく、本業務以外の目的で情報を使用しないことを明確にしておくことが重要です。
4. 個人情報の取扱い
コールセンターでは、顧客の氏名、連絡先などの個人情報を取り扱うケースがあります。
そこで本ひな形では、関係法令等の遵守に加え、
- 必要な範囲を超えた取得・利用を行わないこと
- 不必要な複製や持ち出しを行わないこと
- 不正アクセスや漏えいを防止すること
- 必要に応じて管理状況を報告すること
などを定めています。秘密情報と個人情報は必ずしも同じ概念ではないため、個人情報を取り扱うコールセンターでは、秘密保持条項だけでなく個人情報の取扱いについても整理しておくことが重要です。
5. 通話内容・録音データの取扱い
コールセンター契約で特に確認しておきたいのが通話録音です。品質管理、オペレーター教育、問い合わせ内容の確認などを目的として通話を録音する場合があります。
録音データには顧客の発言や問い合わせ内容などが記録されるため、
- 何のために録音するのか
- どこに保存するのか
- 誰が閲覧・再生できるのか
- どの程度の期間保存するのか
- 保存期間終了後にどう削除するのか
などを業務の実態に応じて整理しておくことが重要です。本ひな形では、録音データだけでなく、そこから作成された文字起こしデータや対応履歴についても秘密情報として管理する構成としています。
6. システム・アカウント情報の管理
電話代行業務では、委託元企業のCRM、予約システム、メール、チャット、電話システムなどへオペレーターがアクセスする場合があります。このときIDやパスワードを複数人で無制限に共有すると、不正アクセスや情報漏えいが発生した際に原因を確認しにくくなります。そのため、アカウント情報についても秘密情報として管理し、権限を有する者以外への貸与・共有・開示を制限しておくことが重要です。
7. 秘密情報の複製制限
コールセンターの情報漏えいは、システムそのものから発生するとは限りません。画面の撮影、データのダウンロード、紙への印刷、個人端末への転送などによって情報が外部へ持ち出される可能性もあります。そのため、本ひな形では業務上必要な範囲を超える複写・複製・撮影・録音・転記・ダウンロードなどを制限しています。
8. 再委託
コールセンター会社が業務の一部を別会社へ委託する場合、秘密情報が当初想定していなかった第三者へ渡る可能性があります。
そこで、再委託を認める場合には、
- 委託元から事前承諾を得る
- 再委託先にも同等以上の秘密保持義務を負わせる
- 再委託先による情報管理について受託会社が責任を負う
といった条件を設けることが考えられます。
9. 情報漏えい等の事故発生時の対応
秘密保持契約では、情報漏えいを禁止するだけでなく、実際に事故が発生した場合の対応も定めておくと実務上使いやすくなります。
例えば、
- 事故発覚後の速やかな報告
- 被害拡大防止
- 原因調査
- 影響範囲の確認
- 再発防止策の策定
などです。誤送信や誤案内なども含め、問題が発生した場合に委託元と受託会社が速やかに情報共有できる仕組みを整えておくことが重要です。
10. 秘密情報の返還・削除
業務委託が終了しても、受託会社のシステムや端末に顧客情報が残っていれば、情報漏えいリスクは残ります。そのため、契約終了時や委託元から要求された場合に、秘密情報を返還・削除・廃棄する条項を設けます。一般的な秘密保持契約でも、契約終了後又は開示者から要求があった場合に、秘密情報を返還又は廃棄する構成が採用されています。中小企業庁の参照する契約書レベルコールセンターでは電子データが中心となるため、CRMから抽出したデータ、録音ファイル、作業用ファイルなどについても削除対象を確認しておくことがポイントです。
11. 損害賠償・差止め
秘密保持義務に違反した場合の責任についても定めておきます。秘密情報は一度外部へ流出すると完全な回収が難しい場合があります。そのため、損害賠償だけでなく、情報の使用や開示を停止させるための差止めについて定めることがあります。参照資料でも、秘密保持契約への違反による損害賠償と、違反又は違反のおそれがある場合の差止めについて、それぞれ規定されています。中小企業庁の参照する契約書レベル
12. 契約終了後の秘密保持義務
秘密保持義務は、コールセンター業務が終了した瞬間に消滅させるとは限りません。契約期間中に取得した顧客情報や企業情報については、業務終了後も一定期間秘密保持義務を存続させる方法があります。参照資料でも、契約自体の有効期間と、契約終了後に秘密保持義務等を存続させる期間を分けて設定する構成となっています。中小企業庁の参照する契約書レベル実際の期間については、取り扱う情報の性質、委託業務の内容、他の契約との関係などを考慮して設定する必要があります。
秘密保持契約書とコールセンター業務委託契約書の違い
秘密保持契約書と業務委託契約書は、目的が異なります。秘密保持契約書は、主として秘密情報の取扱いを定める契約です。
一方、コールセンター運営業務委託契約書では、
- 委託する電話対応業務の範囲
- 受付時間
- 対応件数
- 報告方法
- 業務委託料
- 支払方法
- 業務品質
- 契約期間
- 契約解除
など、実際の業務提供に関する条件を中心に定めます。参照資料でも、秘密保持契約は秘密情報の取扱いを定めるものであり、物品の売買や役務提供などの取引自体を約定するものではないという整理がされています。したがって、電話代行会社へ業務を委託する場合には、業務委託契約書でサービス内容や料金などを定め、必要に応じて秘密保持契約書で情報管理について詳しく定める方法が考えられます。
秘密保持契約書を作成する際の注意点
- 秘密情報の範囲を業務内容に合わせる
問い合わせ受付、予約受付、カスタマーサポートなど、コールセンターの業務内容によって取り扱う情報は異なります。実際の業務で扱う情報を確認したうえで秘密情報を定義することが重要です。 - 通話録音の有無を確認する
通話録音を行う場合には、録音データの利用目的、保存方法、保存期間、アクセスできる担当者などを整理しておく必要があります。 - 利用するシステムを確認する
CRM、電話システム、メール、チャット、予約システムなど、外部オペレーターが利用するシステムを確認し、アクセス権限や認証情報の管理方法を明確にします。 - 再委託の有無を確認する
外部スタッフや別会社が業務に参加する可能性がある場合には、再委託の条件と秘密保持義務を明確にしておくことが重要です。 - 契約終了後のデータ処理を決める
顧客リスト、録音データ、対応履歴、作業用データなどについて、返還するのか削除するのかをあらかじめ決めておくと、契約終了時のトラブル防止につながります。 - 実際の運用と契約内容を一致させる
契約書で厳格な情報管理を定めても、実際のオペレーターが個人端末へ情報を保存できる状態では十分とはいえません。契約内容と実際の情報管理体制を合わせることが重要です。 - 必要に応じて専門家へ確認する
取り扱う個人情報の種類、業務内容、システム構成、再委託の有無などによって必要な条項は異なるため、実際に利用する際は弁護士その他の専門家への確認を検討します。
まとめ
秘密保持契約書(コールセンター運営)は、電話代行やコールセンター業務を外部へ委託する際に、顧客情報、通話内容、録音データ、対応履歴、業務マニュアル、システム情報などを適切に管理するための契約書です。コールセンターでは、オペレーターが顧客と直接やり取りするため、日々の業務の中で多くの秘密情報を取り扱います。そのため、一般的な秘密保持義務だけでなく、目的外利用、通話録音、個人情報、アカウント管理、再委託、情報漏えい時の対応、契約終了後のデータ削除まで具体的に定めておくことが重要です。また、秘密保持契約書だけですべての業務条件を定めるのではなく、コールセンター運営業務委託契約書などと組み合わせ、業務内容・報酬・運用ルールと情報管理ルールを整理することで、委託元と受託会社の責任範囲をより明確にできます。実際に契約書を利用する場合は、電話代行の内容、取り扱う情報、通話録音の有無、使用システム、再委託体制などに応じて内容を調整し、必要に応じて弁護士その他の専門家へ確認することが推奨されます。